学習通信090623
●非正規労働者を自分たちの安全弁≠ニ見るような意識が……

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 人間を人間として、また世の中にたいする彼のあり方を人間的なあり方として前提するならば、きみは愛をただ愛とのみ、信頼をただ信頼とのみ、等々、交換することができる。

きみが芸術を楽しみたいならば、きみは芸術的な教養のある人間でなければならない。

きみが他の人々に影響力を及ぼしたいならば、きみは実際に他の人々を活気づけ鼓舞するようなはたらきをもつ人間でなければならない。

きみの人間にたいする──および自然にたいする──どんなあり方でも、それはきみの現実的個人的な生き方のある特定の、きみの意志の対象に見合った表現でなければならない。

きみが愛することがあっても、それにこたえる愛をよび起こすことがないならば、換言すればきみの愛が愛として、それにこたえる愛を生み出すことがないならば、きみが愛する人間としてのきみの生活表現によって、きみ自身を、愛された人間たらしめることがないならば、きみの愛は無力であり、一つの不幸なのである。
(マルクス「経済学・哲学手稿」マルクス・エンゲルス8巻選書 大月書店 p88)

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 今日の講義は、「科学的社会主義について」です。

 昨年(二OOO年)十一月の第二十二回党大会で改定した日本共産党の規約は、第二条に、「党は、科学的社会主義を理論的な基礎とする」と規定しています。その科学的社会主義を勉強するのが、今日の主題なのですが、これは、私たちのものの見方・考え方、世界をどう見、どうとらえるか、その根本にかかわる問題です。ですから、今日の六時間はどの講義ですべてが分かるという、簡単な話ではありません。また、何冊かそれに関する本を読んだから分かった、と言えるものでもありません。

 科学的社会主義のものの見方・考え方というものは、私たちの活動の基礎でもあり、いろいろなものごとを考える根本でもあるわけですから、それを本当の意味で身につけるには、不断の勉強が必要です。その勉強には、本を読むこともあれば、実際の活動もあり、その活動を分析し、考えをめぐらすこともある。はっきり言えば、自分の生涯にわたって勉強を積みあげてゆくもの、きたえてゆくものだ、そういうつもりで取り組んでほしい、と思います。

 ですから、今日の限られた時間での私の講義は、そういうこれからの勉強のための入門的なものだと言ってよいでしょう。科学的社会主義の本についても、みなさんがこれまでに読んでいるものは、それぞれ違いがあると思いますが、これから勉強をすすめてゆくうえで、科学的社会主義の理論の要はどこにあるのか、そこをつかんでおけば、これからの勉強に必ず役に立つだろうと思われる、いちばんさわりのところを話してゆくつもりですから、そのつもりで聞いてください。
(不破哲三著「科学的社会主義を学ぶ」新日本出版社 p11-12)

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理論水準をたかめること

 これまで、組合幹部の実務能力を身につけることについてのべましたが、もちろん、それは、実務能力だけがすぐれておればよいというのではなく、階級闘争の理論をしっかり身につけることが大切です。組合幹部はこの二つをともに身につけることができれば、それはまさしく「鬼に金棒」です。

 組合幹部がいちばんなやむのは、組織力が闘争にともなわないばあいです。闘争の集約や妥結は、かならずしもいい条件ではないが、これ以上たたかいをつづけると組織そのものの団結の維持がむつかしくなるというばあいです。組織的力量がともなわないために、組合員の要求を全面的に貫徹することができないばあいは、きわめて多いわけです。

「たたかわなければ要求はとれないし、たたかえば分裂する」という両側面をどう統一的に克服するか、というむつかしい問題です。

経済闘争は改良のたたかいですから、「組織の命運をがけて、最後の一人になるまでたたかう」という路線は正しくありません。労働組合は労働者階級のたたかう部隊であり、大切な財産です。

だから、要求を実現するたたかいを通じて労働組合をつよめ、労働組合に組織されている労働者の階級的自覚をたかめ、この組織労働者の大部分が、労働者階級の歴史的使命を自覚するまでになるため、組合幹部は指導と援助をしなければなりません。

したがって、労働組合はそれぞれの条件に応じてのたたかいを通じて、階級的自覚をたかめることが大切です。たたかえるだけたたかって、あとはどうなってもしかたがない、という態度は、結果として労働者階級の利益をうらぎることになります。

 このため、たたかいには節度が必要であり、たたかって集約し、集約の基礎のうえにさらに新しいたたかいを発展させるという指導が、一般的に必要です。

だがら、組合の幹部は、たたかいを組織し発展させるとき、どのような条件のもとで、どのように妥結するか、そしてそのことは、組織をつよめるためにどういう作用をおよぼすかを、判断する能力をもつことです。

また、同時に、この幹部の考えかたを組合員に説明し、さらに団結をつよめて前進することができるように、妥結を位置づける能力(ゴマカすことでなく)をもつことは、組合幹部にとってひじょうに重要です。

 組合幹部がこのような能力をもつためには、みずから理論学習をふかめ、理論水準をたかめる以外にありません。

理論学習の対象は、哲学、経済学、労働運動の理論をつなげて学ぶことが基本ですが、たたかいの具体的な方法に有効なものとして、労働関係の法律の学習も必要です。

とりわけ、労働者は搾取と支配からのがれるためにたたかっているのですから、搾取の理論=経済学の理論が直接必要であり、たたかいの展望を正しくもつために、史的唯物論の学習も大切です。

また、労働組合運動を理論的に学ぶために、労働組合運動の発展を歴史的にみることが重要です。歴史的にみるということは、労働組合運動の発展を法則的・必然的にみるということであり、そのことを通じて、幹部は、現在の課題に理論的にこたえることができます。

 階級闘争の理論とはなにか。

長年つみかさねられたたたかいの経験を総括し、一般化して、ふたたび実践のなかで、その実践をみちびく法則として役立ち、一層豊かになるというところにあります。

だから、理論は運動発展の必然性をあらわしたものといえるでしょう。

このため、理論を学んだからといって、それはそのまま、幹部が直面しているすべての問題に、具体的に適用できるとはかぎりません。

幹部は理論を自分の頭脳で消化し、血や肉にしなければならないわけです。そうしてこそ、具体的な問題に理論的に対処できるのです。

 ですからきょう、古典を読んだことがあすはすぐ成果となってあらわれる、というわけではありません。学習の成果はすぐは目に見えません。だから、根気づよくつづけることはたいへんです。しかし、いくらたいへんでも、それをつづけなければ、労働組合の一人前の幹部になることはできません。

 わたしは雪国に生まれました。夕方からふりはじめた雪が、中庭の池の水にすいこまれ、つぎからつぎへ消えてゆきます。他の周囲には雪は真白くつもっていますが、池の中ではなんの変化もありません。それがどうでしょう。朝おきてみると、池の上にも雪が真白くつもっているではありませんか。わたしは、理論学習というものはこういうものではないか、とつね日ごろ思っています。

 組合幹部は暇があったら遊ぶか、ねるかだけでは、理論水準をたかめることはできません。あたたかいメシをくい、酒をのみ、あたたかいフトンに、人と同じ時間ねていたのでは、理論を身につけることはできません。なかには、オレは忙しくて勉強するにも時間がないんだ、という人がいます。わたしは、こういう人に、ねる時間はあるんですか、とたずねることにしています。

 組合幹部は忙しいのはあたりまえで、もし、忙しくない幹部がいるとしたら、現在のようなきびしい情勢のもとでは、怠けているとしか思えません。忙しい人はどうして学習するか。一般的にいってねる時間を節約するしかありません。もっとも、身体の弱い人に強制するものではありませんが。

 わたしのばあいを紹介しますと、わたしも理論水準はなかなかたかまらないし、肉体的疲労もかさなって、本をよむ時間、学習する時間が十分とれなくてあせりを感じています。そこで、どんなにおそく帰っても、家にいるときは、最低二時間はなにかを読むことにしています。睡眠時間は平均五時間くらいでしょう。さいきんは年齢のため、疲れるようになったので、出張のさいはできるだけねるようにしています。
(細井宗一著「労働組合幹部論」学習の友社 p95-99)

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たたかってこそ
使い捨て雇用≠打破できる
●非正規労働者と心を通わせて

生熊 茂美
 全労連副議長
 JMIU委員長 に聞く

──以上略

 非正規労働者の状態改善なしに日本社会の未来はない

──JMIUは早い段階から、非正規労働者の雇用や労働条件の改善を求めて活動してきましたね。

 二〇〇三年の国会で、製造業への派遣労働解禁、派遣制限期間延長などの労働者派遣法改悪、労働基準法改悪でも有期雇用の上限三年へ延長、裁量労働の要件の緩和などが行われました。私は、労働法制改悪に反対するたたかいのなかで、これが強行されたら非正規労働者が激増して、職場では労働条件の低下だけでなく、労働者の技術・技能の継承が困難になると感じていました。他方では、正社員には「ただ働き残業」と「過労死」が増える恐れを感じました。そして、青年労働者の状態悪化によって、いっそう「少子化」がすすんで大きな社会問題になると思い、私は全労連を代表して、衆議院の参考人質疑でも警告を発してきました。

 その直後の二〇〇四年に、徳島・光洋シーリングテクノで「偽装請負」で働かされていた労働者がJMlUに加入し、労働条件向上と雇用の安定、そして「直接雇用」を求めて立ち上がったのです。このたたかいにとりくんだことが、JMIUの非正規労働者の課題にとりくむ方針を変える転換点になったと思います。

 「偽装請負」の仲間たちは、正社員に仕事を教えているのに賃金は半分以下、何年たっても賃上げなし、ボーナスなし、退職金もなし、契約期間は三ヵ月ぐらいでいつ辞めさせられるかわからない、こんな働き方はおかしい、これでは将来がない、こんな思いで立ち上がったのです。それだけではありません。新しいプレス機械の試運転中に腕がはさまれそうになり、重大労働災害の危険が起こりました。しかし「社員でない、別の会社の人だから」と、危険な事態が起こったときの注意情報さえ職場に流しませんでした。「命さえも差別するのか」、本当に怒りがわきました。トヨタ系列の別の会社では、実際に事故が起こっても「労災かくし」をおこない、闇に葬られそうになったこともありました。

 同時に、「偽装請負」という形で違法な派遣労働かおこなわれているという状態は、職場でいっしょに働いている労働者を集団的に労働組合に組織化し、職場に労働組合がつくれるということも、新しい発見でした。それまでは、派遣労働者の組織化は個別にすすめるしかないと考えていたのですが、製造現場では雇用形態にかかわりなく、JMlUのもっている組織化のノウハウが生きることがわかり、自信をもってとりくむこともできました。

 このように、人間扱いされないさまざまな差別の実態にふれるたび、私はどうしても非正規労働者の状態改善をかちとるたたかいと組織化に力を尽くさないといけないと、強く突き動かされました。これは私だけでなく、JMIUという労働組合全体がそういう認識になったと思います。

「事件解決型から組合づくり型へ」

──活動をすすめるとき、どんなことに留意していますか。

 労働者から相談があったときに、私たちが重視してきたのは、個人の事件を解決するだけでなく、職場に労働組合をつくり、団結の力で要求実現をすることを追求することです。「事件解決型から組合づくり型へ」というスローガンにしました。

 たとえば、「残業代が払われていない」という相談があったとき、「それはあなた一人だけですか」と尋ねます。残業代不払いは明らかに違法ですから、労働基準監督署に訴えればだいたい解決します。それだけでは、本質的な問題は解決しません。二度と違法行為が起こらないような職場にしなければならないのです。残業代不払いは、ほとんどの場合、一人だけの問題ではないはずです。労働者から相談があれば、同じような不満や要求を持っている人は職場にいますから、労働組合をつくれる土台があるのです。何しろ「労働組合は要求で団結する」のですから。

 そうしないと、一人の労働者が勇気をもって残業代不払いを告発して、結果として残業代が払われたとしても、そのあと嫌がらせをされて、職場を追い出されてしまうといったことはよくあることです。たたかう労働組合を職場につくればそういうことは許しません。だから、労働組合を結成して、安心して働き続けられる状況をつくる必要があるのです。事件を解決するだけで終わらせていたら、いつまでたっても労働組合の組織拡大(団結の輪の広がり)はできません。職場に労働者の共通要求があること、仲間を増やせる人をつくること、この二つの条件をつかめば、職場に労働組合をつくることができます。

要求は正当なもの、できることはなんでも

 この間の非正規労働者のたたかいで、JMIUの組合員はがんばってきました。これはJMIUの本部から、「やれ」と指示を出してたたかったものではなく、現場から始まっているたたかいです。現場の労働者が自分たちの要求にもとづいて、「こんな働かせ方はおかしい」「いきなり解雇とは許せない」と立ち上がったときに、私たち産業別労働組合の役員が果たすべき役割は、要求実現のためのたたかいを前進させるために、たたかいの方向を示し、全国の組織の力を集めて援助し、支えていくことが大事だと思っています。

 相手のあることですから、いつでも順調にすすむとは限りません。本当に勝てるのか≠ニ躊躇したり、あれこれと理屈を並べて立ち止まるのではなく、要求が正当なものである限り、立ち上がった仲間たちを支えて本当に勝利させよう、そのためにできることはなんでもやろうという立場です。

 この間、非正規労働者の問題に取り組むことで、JMlUという労働組合の質が上がったと感じます。自分たちの職場で、派遣の人たちを正社員にしようとか、派遣労働者の賃上げをさせようとか、一生懸命考えて取り組むようになりました。

すべての仲間の要求を掲げて

 JMIUは、産業別の統一要求として、派遣労働者も含めてすべての仲間の賃上げを要求しています。こういう要求を出している労働組合はほかにないと思います。すべての仲間≠ニいっても、派遣労働者の給与は派遣元の会社が支払うものだから雇用主が違うし、組合員でない人の賃上げも要求するのかという疑問は組合員からも出てきます。でも、一緒に働く仲間の賃金があまりに低いとわかったら、それを上げろと要求することは労働者として当たり前の連帯です。それだけでなく、いっしょに仕事をしているのに、派遣だからとか、組合員でないからといって放っておいたら、今度は自分たちの労働条件引き下げにつながる、だから心を通い合わせていっしょに取り組もうとやってきました。

 実際に、メタルアート(滋賀県草津市)という鍛造の会社では、JMlU支部が派遣労働者の賃上げを要求し続けてきましたが、昨年会社は派遣会社に対してこれは派遣労働者の賃上げをするためのもの≠ニいう条件をつけて派遣契約の額を引き上げました。こういうやり方でできるといってはきましたが、初めてのことで私も驚きました。

 正社員の組合であっても派遣労働者の要求に一生懸命とりくんでいることがわかれば、正規労働者と非正規労働者の垣根はとれて信頼関係ができ、非正規の労働者も組合に加入してきます。職場の中でも、非正規労働者に対する見方が変わって、仲間だという意識が広がります。

 光洋シーリングテクノでの「偽装請負」とのたたかいでも、日亜化学の派遣の若者たちが不当に解雇されたたたかいでも、徳島県で集会を開催すると、全国からたくさんの仲間か、自分の職場でカンパを集めたり自己負担もしながら交通費をやりくりして集まってきます。全国からの支援に支えられて、たたかいが前進して、成果を勝ち取っていくと、支援した人たちにとっても財産になっていきます。そういうことをくり返しながら、労働組合の求心力が高まり、連帯感が広がってきました。

「結果を恐れずに精いっぱいたたかおう」

──正社員と非正規労働者が連帯できるようになるまでには、紆余曲折もあったのではないですか。

 ありましたね。正社員の中にも、自分たちは一定額の賃金を受け取れる、ボーナスもある。非正規労働者の賃金が上がったら、自分たちのボーナスが減るのではないか≠ニいうように、非正規労働者は自分たちの雇用や労働条件を保障するための安全弁≠ニ見るような意識が、実際にはありました。同じ職場でいっしょに働いていくなかで、また運動が前進するなかで、同じ働く仲間として見ることができるようになってきます。

 昨年秋の時点で、すでに非正規労働者の大量解雇が発表されていました。しかし、JMIUの中でも派遣労働者の問題、外国人労働者の問題に積極的だった組織は、そのときはまだ少数でした。私は十一月にあったJMIUの組織建設会議で、「結果を恐れずに精いっぱいたたかおう」と訴えました。非正規労働者の権利が弱いなかで、かっこいい成果が得られるかどうかは予測できませんが、結果を恐れてはならないのです。一緒に苦労しながら精いっぱいがんばれば、仮に思うようにいかなくても、お互いに納得できる結果が生まれ、何らかの財産を残すことは必ずできます。たたかってこそ事態を打開する条件が広がるのであり、立ち止まっていては何も生まれません。

たたかいで影響力広げ組合員二千人拡大

──JMIUは今年二十周年を迎え、組合員が増えているそうですね。

 JMlU(全日本金属情報機器労働組合)は、金属機械、電機、鉄鋼、自動車などの金属関連、コンピュータ、ソフトなど金属情報機器関連産業で働く仲間を中心につくっている個人加盟の産業別単一労働組合で、全国労働組合総連合(全労連)の加盟組織です。日本IBMや日産自動車、ニコンなどの大企業から中小企業まで全国に約三百の支部・分会があります。

 JMlUは、全労連の中でも大きい組織ではなく、組合員は一万人に満たないのですが、昨年の六月以降で二千人ぐらい拡大しています。組合員にとっても、自分たちの組合に誇りと確信を持つことができた一年だったでしょう。地道な活動を続けてもなかなか芽が出ないときもありますが、この一年はたたかいを通じて社会的な影響力が広がったと思います。

 産業別の労働組合であったからこそ、こうした前進ができたと思います。個々の職場の問題も、産業別労働組合として取り組みます。団体交渉も「産別団交」といって、産別組織としてやるのです。また、派遣など非正規労働者も含めて、自分たちの働く企業の外の地域で労働組合未加入の労働者を労働組合に組織していくこと、私たちは「未組織の組織化」と言っていますが、この二つを非常に重視してきました。

真の産業別労働組合をめざして

 JMIUが真の産業別労働組合に成長しようとしてめざしている課題は、一つは金属産業労働者の労働条件に大きな影響をもたらす組織となること、二つ目は金属産業や社会に影響をもたらす組織になること、三つ目は産業別の組織として、どこの職場にいてもみんなが団結・連帯して、みんなの痛みをみんなで解決していくことです。

 今回のたたかいで、二つ目と三つ目の目標に向けては大きく前進することができました。先ほど話したように、どこで起こっている問題でも、みんなが大事だと考えて全国的な力が結集される、連帯感のある労働組合であることが大切だと思います。

 真の産業別労働組合は、企業の枠にとらわれていたらできません。企業別の組合では、地域の未組織労働者を組織することはできません。私たちは地域支部をつくって、地域の労働者も入れるようにして、いつでも労働者全体の団結をすすめていきます。だから、労使関係も個々の企業の中だけにとどめるのではなく、産業別組織であるJMlUと個別の企業の経営者との労使関係をどうつくるかが大事だと思います。

 本来的に言えば、いずれは産業別の経営者団体と交渉できるようになって、少なくとも金属産業で働く労働者の最低労働条件ぐらいは決めることができるようになりたいですね。現在はそこまではいかなくても、個々の会社側との交渉では、「産別団交」でJMlUが個々の経営との関係でも労働条件を決めることとともに、JMlUとしての最低基準、JMlUの組合員ならどこで働いていても少なくともこれだけの水準は勝ち取ろうという最低基準を示して要求しています。

 資本が国内経済に責任を持たなくなった

──大企業の横暴と対峙しながら、どんなことを感じていますか。

 解雇のスピードが、以前と比べて全然違います。一九九〇年代前半にバブルが崩壊して、そのあと景気が立ち直りかけた九七年に、橋本内閣が消費税を引き上げ、金利を引き上げて景気が再び沈み出し、九八年から再び不況に陥りました。その影響で解雇が起こったのは、ITバブル崩壊の二〇〇〇年から〇二年にかけてでした。不況、生産減から解雇までタイムラグがあった、経営者はまがりなりにも我慢していたのです。

 ところが今回は、昨年秋のアメリカの金融危機を発端に、急速に生産の減少が進みましたが、これと並行して、あるいはそれよりも先に、大企業は大量解雇に走ったというのが実態です。

 それには二つ要因があって、一つは、資本主義のグローバル化がすすんで、資本が国内経済に責任を持たなくなったことです。製造業でいえば、もうかりさえすればどこでつくってどこで売ってもかまわないからと、国内の市場や消費購買力をどうするかという考えがきわめて希薄になりました。「無国籍企業」などという言い方もされますが、自分の国の国民・労働者に責任をもたないのです。

 もう一つは、労働法制の改悪です。非正規労働者を増やして解雇しやすくなり、労働者の生活や命に責任をもたなくなった。御手洗冨士夫経団連会長が、自分の会社で派遣労働者が大量に解雇されたときに、これはキヤノンが切ったんじゃない、派遣会社が切ったんだ≠ネどと発言したことは象徴的です。ヨーロッパなどの同じ資本主義の国とくらべても、日本の異常さは際立っています。

 労働行政の側もいろいろな対応はしてきましたが、違法な状態をなくすといっても、労働者の生活や権利を守るために動くわけではありません。たとえば、労働局に対して違法派遣、偽装請負を告発しても、労働局は受け入れ企業にたいして直接雇用せよという指導はしないのです。実際に違法状態が続いて、受け入れ先は大きな利益を得ているのに、直接雇用をさせなければ「違法のやり得」になるのです。昨年の十一月二十八日の厚労省の通達でも「直接雇用を推奨する」と言っており、企業にたいしてもっとまともな指導をするべきです。思いきった労働行政の転換が必要だし、派遣法や労働基準法など法律を抜本改正しなければならないですね。

若い人たちといっしよに走って成長する

──JMIUのたたかいでは若い労働者のがんばりが注目されています。若者たちの活動を支えるときに、どんなことを念頭に置いていますか。

 若い人は、おとなしいようでも怒りがあります。大事なのは、たたかう方向と解決の展望がわかったら、ものすごく変化するのだということです。今の若者は、傷つきながら育ってきますから、信用できる友達がすくないなど、いろいろな困難をかかえているのも確かだと思います。立ち上がるときに必要なのは、知ること、仲間がいること、それによって勇気を得ることが大切ではないかと、この間実感しています。

 契約期間途中で解雇されても、派遣だから、いつ切られてもしょうがない≠ニあきらめる労働者が多いのも事実です。今年の三月末で解雇される派遣労働者が四十万人という試算がありましたが、「おかしい」と声をあげて立ち上がった人はごく一部の人たちでしょう。

 しかし、今回の「非正規切り」に対して立ち上がった労働者は、「俺たちはこんなに一生懸命働いてきたのに、どうしていきなりクビなんだ」と怒り、仲間と行動するなかで、なぜこんなことが起このか、誰が自分たちの味方なのかを急速に見極めていきます。この間、派遣の人たちが集まった集会があり、いっしょにデモ行進をして国会請願もしました。参加した若者たちの間で、「国会議員は、誰が出てきてくれるのかな」「いくつもの政党に頼んでいるけど、どうかな」「でも共産党だけは出てくれるよね、俺たちの味方だからな」といった会話が普通にされていました。

 「会社に言いたいことがあるから」「団交に出たいから」というのが動機になって、自分からJMlUに加入してくる青年がいます。青年は、自己主張したいし、「自己実現」の場を求めているのです。こうした若者の姿に私たちも驚かされます。若い人たちから私たちが学ぶことはたくさんあります。若者を引き回すのではなく、いっしょに歩いて、いっしょに走って、お互いに成長するという姿勢が大事だと思います。

未組織労働者の組織化は階級的な崇高な任務

──「労働運動の出番の情勢」と言われますが、労働運動、労働組合はいまどういう役割を果たすときでしょうか。

 最近、私か強調していることですが、企業に社会的責任があるように、労働組合にも社会的責任がある、つまり「労働組合の社会的責任」をどう果たすかということがあります。

 脇田滋さん(龍谷大学教授)の『労働法を考える』(新日本出版社)の中に、なぜ労働組合は憲法二八条で団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)という労働三権が認められているのか、と書かれていました。脇田さんは、それは組合員だけでなく、すべての労働者の状態の改善をめざす役割が、労働組合には期待されているからだ≠ニ述べていて、あらためてなるほどと思いました。労働者に保障されている権利は、結社の自由にとどまらない特別なものです。もともと、経営者よりも立場が弱い労働者に対して、特別の権利を保障しなければ対等になれないのと同時に、もう一面では、労働者全体の状態の改善をめざす役割が労働組合には期待されているという社会的責任があるからこそ、この労働三権があるわけです。

 JMIUのそれぞれの組織でも、自分たちの職場の問題に取り組むのと同時に、大事なのはJMIU自身が大きくなることです。そのこと自体が要求実現の力になるわけです。企業の中だけでなく、JMIUという産業別労働組合と各経営者との労使の力関係を変えることが大切です。

 ですから、未組織労働者を労働組合に組織する活動は、階級的な崇高な任務だと、私は考えます。企業内組合で、自分の会社や正社員のことにしか目が向かないのでは、労働組合の本来の役割を果たせないと思います。

若者の未来を奪う社会を変えるために

 労働運動でいま集中してやるべきことは、労働法制の改正、とりわけ労働者派遣法の抜本改正です。登録型派遣の原則禁止など厳しい規制、日雇い派遣の禁止、製造業への派遣禁止、正規労働者との均等待遇、違法派遣や偽装請負があったときのみなし雇用など、ただちに抜本的に改正するべきです。また、派遣先企業に対する派遣労働者の団体交渉権を確立することは、非常に大事です。

 ヨーロッパでは、派遣労働者もEU指令で均等待遇になりますし、期間が限られた有期雇用だからと逆に正社員よりも時給が高い場合もあります。仕事がない期間の職業訓練教育も受けやすい。だからヨーロッパでは、有期雇用労働者を使ってもコスト削減にあまり役立たないため、有期雇用労働はそれほど広がらずせいぜい十数%です。一時的、臨時的な仕事でどうしても人手が必要というときだけです。日本の派遣法も、その原則を厳格に守らせなければなりません。

 もう一つは有期雇用期間の制限です。二〇〇三年の改悪で最長一年から三年になったのですが、一年に戻すべきです。とくに製造業では一年と三年では大違いです。三年あれば仕事も覚えるので、経営者にとっては使い勝手のよい雇用なのです。三年も同じ職場で働けば相当のことができるようになるのだから、正規雇用にするのが当たり前です。常時ある仕事は常用雇用・正規雇用でこそ、労働者同士の協力がすすみ、技術の蓄積、技能の継承ができます。それは企業にとっても良いことです。かつては、それが日本企業の強みでした。

 逆に、最近のように「国際競争力」論を振りかざして、低賃金の労働者を使い、いらなくなったら簡単に首を切り、労働力のコストを削ることでもうけを増やすような経営を続ければ、企業の基盤を掘り崩すだけです。

 若者に仕事がないことは、世の中にとっては最悪の状態です。いま変えていかないと、大きなしっぺ返しを受けることになります。いま日本社会は「少子化」という課題に直面しています。若者の大多数は労働者です。若者に仕事がない、そして多くの若者が劣悪な労働に従事せざるを得ない、この「結婚できない」「子どもが産めない」という状況が「少子化」をいっそう進行させています。「少子化」は、年金などの社会保障にも重大な悪影響をあたえます。それだけではありません。日本の労働人口の急減、そして日本の消費市場の縮小に直結するのです。それは、すでに始まっているといっていいでしょう。

 若者の未来を奪い、展望を失わせるようないまの日本社会を変えていくために、力を尽くしていきたいと思います。
(いくま・しげみ)
(「前衛 09年7月号」日本共産党中央委員会 p106-118)

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◎「人間を人間として、また世の中にたいする彼のあり方を人間的なあり方として前提するならば、きみは愛をただ愛とのみ、信頼をただ信頼とのみ、等々、交換することができる」と。