学習通信081205
◎IMF改革……

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グローバル・ニューディールを

 世界同時不況の大津波が急速に迫っている。G20(緊急金融サミット)に参加したほとんどの国・地域は大胆な景気刺激策を打ち出し、難局に備えている。しかし各国・地域ごとの対応には限界がある。それぞれの産業保護に陥る危険もある。グローバル危機の時代に求められるのは、金融安定から地球環境危機の克服までグローバル・ニューディールである。

 米国発の金融危機は世界の実体経済を直撃し始めた。信用収縮が広がるなかで、金利引き下げや流動性供給では間に合わず、公的資金注入と合わせて直接的な財政刺激が必要な段階になっている。

 オバマ次期米政権は来年一月の就任早々に大型の財政刺激策を打ち出すだろう。欧州連合(EU)は付加価値税の引き下げという非常措置を中心に二十五兆円の刺激策を取る構えだ。中国はいち早く住宅建設など五十七兆円もの景気刺激策を表明している。

 そのなかで日本の麻生太郎政権は何をしているのか。追加経済対策の裏付けとなる二次補正予算案の国会提出を先送りしたのは、「政局より政策」と繰り返してきた麻生首相の姿勢と矛盾する。未曽有の経済・金融危機打開に取り組むことを申し合わせたG20合意にも違反する。

 麻生政権の「不作為」は論外だが、G20に求められるのは国別・地域別対策を超えたグローバル戦略だろう。国際通貨基金(IMF)と世界銀行の強化だけでは不十分だ。金融安定には各国の金融監督当局を超えた「グローバル・シェリフ」が必要だ。IMF、世銀に国際決済銀行(BIS)、経済協力開発機構(OECD)を加えた国際機関の連携が欠かせない。その再編成も課題になるだろう。

 地球環境危機の克服のため、ポスト京都議定書の温暖化防止の枠組みが重要になる。新エネルギー開発、水資源開発などでグローバルな取り組みが欠かせない。環境の高いハードルが新たなグローバル需要を生む可能性がある。

 危険なのは、それぞれが内向きになり、グローバルな課題から目をそらすことである。保護主義の誘惑は世界不況を深刻化させるだけだ。

 グローバル危機の克服で第二の経済大国、日本の使命は重い。「時間との戦い」を放棄すれば、麻生政権は歴史に汚名を残す。効果の乏しい定額給付金ではなくグローバル・ニューディールにこそ目を向けるときである。(無垢)
(「日経」20081202)

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金融サミットとIMF改革
米主導体制の転換を

 米国発の世界的な金融危機を受けて十盲子四、十五日にワシントンで開催された金融サミット(首脳会議)では、危機対策のほか国際通貨基金(IMF)の改革問題も議論になりました。日本福祉大学の毛利良一教授に改革の課題を聞きました。(聞き手 金子豊弘)

日本福祉大・毛利良一教授に聞く

 今回の金融サミットは、欧州の要請で主要国(G8)に中国やインド、ブラジルなどの新興国を加えた二十カ国・地域が集まって首脳宣言を発表しました。これは、先進国だけでは世界経済が直面している課題に対応することができなくなった、ということを意味しています。

首脳宣言は、危機の根本原因として、不健全なリスク管理慣行、複雑で不透明な金融商品、過度のレバレッジ(借り入れ金をテコに投資元本を膨らませること)が組み合わさって「金融システムの脆弱(ぜいじゃく)性を創出した」と指摘し、さらに「いくつかの先進国の規制・監督当局はリスクを適切に評価・対処せず、金融技術革新について行けず、規制の結果を考慮しなかった」とアメリカ型新自由主義にそったカジノ資本主義#癆サに踏み込みました。

権力闘争の場

 危機対策の行動計画では、@会計基準の透明性・説明責任の強化Aレバレッジや銀行の自己資本規制、役員報酬などの規制拡大B証券化商品や格付け会社の健全性の監督──などを盛り込みました。しかし危機克服の具体策については、二〇〇九年三月未までに開かれる第二回サミットヘ先送りされました。骨抜きされないように注視していく必要があります。

 首脳宣言では、金融危機の対応におけるIMFの役割強化と新興国の発言権増大も強調されました。

 実は、国際金融というのは、国家間の権力闘争の易です。IMFは、戦後構想をめぐる連合国による数年にわたる討議を経て、一九四四年のブレトンウッズ協定によって設立されました。その目的は、為替の安定と自由貿易の拡大ですが、当時のアメリカには、戦後の経済覇権をイギリスから奪うという狙いがありました。

 IMFは、一九八〇年代以降、発展途上国や移行経済諸国に対して新自由主義的経済政策を押し付ける国際機関としての役目を果たしてきました。国際収支赤字に陥って国際支援を求める国に融資を行う代償として、財政・金融引き締めや貿易・投資の自由化、国営企業の民営化に加えて、アジア危機では金融構造改革などが追加されました。食料などへの生活必需品への補助金がカットされ、為替相場の切り下げも行われ、途上国の国民生活が犠牲になりました。

 日本政府は今回のサミットで、危機の原因や金融規制には触れず、ドル基軸体制の継続とIMF資金倍増計画を主張しました。IMF改革を考える場合、このアメリカ主導の体制を転換することが、もっとも重要な課題です。

単独で拒否権

 IMFの仕組みの特徴は、各加盟国が拠出金を出し合う基金方式であり、出資比率にもとづいて投票権比率と利用資金額が決められているということです。そして、重要問題の決定には85%の賛成が必要になっています。アメリカは現在、約17%の投票権を持っており、単独で重要問題についての拒否権を持っている国はアメリカだけです。日常的な業務を遂行している理事会メンバーは先進国の代表が中心です。途上国出身者を含めて新自由主義の考えをもった米国著名大学院出のエコノミストたちが、IMFの幹部候補として採用されているのが実態です。IMF本部は、ホワイトハウス(米大統領官邸)から歩いて五分のところにあるのですが、彼らは、常に意思疎通をし、アメリカに反対されることは言い出しません。

 改革すべきは、このIMFの意思決定に、途上国の意見を反映させていくことです。

 IMFが短期融資を与える国には画一的な経済安定化策・構造改革の義務付けが行われます。この一律の政策の押し付けを改め、国ごとに異なっている対応能力に応じた政策、地域関連を重視した政策をとる必要があります。IMFは、当該国の自主性・主体性を引き出す努力をすることが求められます。
(「赤旗」20081202)

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◎「IMF改革を考える場合、このアメリカ主導の体制を転換することが、もっとも重要な課題」と