学習通信081023
◎政府はいったいどうしてくれるのか……。
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経済天気図
銀行と証券の分離
現在の金融危機は一九二九年の世界大恐慌の再現ではないか、とノーベル経済学賞に決まったクルーグマンなど多くの人が指摘している。ところが現在のブッシュ政権は当時とは全く逆の政策をとっている。
一九二九年にアメリカでは株価が暴落し、証券会社がバタバタと倒産したが、そのあおりで、証券会社を子会社として持っていた銀行がつぶれ、預金者が大損害を受けた。
そこで大恐慌のあと大統領になったルーズベルトは銀行は証券業務を兼営してはいけないという法律を作った。戦後、日本もこれを導入して銀行と証券を分離した。
ところが、今回の金融危機で、アメリカではりーマン・ブフザーズをはじめ大手の証券会社(投資銀行)が破綻した。そこでブッシュ政権はゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの証券会社を銀行持ち株会社に移行させ、メリルリンチにバンク・オブ・アメリカに合併させるという政策をとった。
そうなると、株価が暴落すれば銀行が倒産し、預金者が損害を受けるということになる。ルーズベルト政権が預金者保護のために行った銀行と証券の分離に逆行することをやっているのが今のブッシュ政権である。
日本でも銀行が国債や投資信託をお客に売るようになって、銀行が証券業務を行うようになっているが、銀行に奨められて投資信託を買ったお客が株価暴落でいま大損害を蒙っている。政府はいったいどうしてくれるのか……。(実言)
(「京都」20081023)
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リーマンブラザーズ破綻
日本への影響は?
損失の一方、買収の動き
証券化にメス入らねば再発不可避
萩原伸次郎
この九月十五日、米証券業界第四位、リーマンブラザーズの経営破綻というニュースは、多くの人々にショックをあたえました。サブプライム関連の不良債権処理が不十分で、今年の決算において赤字続きのリーマンは、信用失墜が著しく、公的資金の援助もなく、破綻に追い込まれました。
この破綻は、日本にとって他人事ではありません。なぜなら、日本の金融機関がリーマン関連債権をかなり保有しているからです。みずほフィナンシャルグループ全体で約二百億円の損失、三井住友も約百億円の損失計上をするといいます。また、リーマンが国内で発行した円建て外債(サムライ債)は千九百五十億円で、地方銀行を中心に購入されているといいます。もし不履行になれば、二〇〇一年のアルゼンチン債以来の規模だという指摘もあります(「朝日」九月十七日付)。
米国の投資銀行
「モデルの落日」
しかし、日本の金融機関にとって、このリーマンの破綻をはじめとする米証券業界の苦境は、米国投資銀行を買収する「千載一遇の」チャンスと思えたことは事実でしょう。三菱UFJフィナンシャルグループは、米証券大手モルガン・スタンレーヘの巨額出資を決断しました。また、野村ホールディングスが、破綻したリーマンの人材を引き継ぐことを決定し、アジア・太平洋部門へ二億二千五百万ドル(約二百四十億円)、また欧州・中東部門については、たったニドルで買収すると報道されました。野村は、リーマンの腐った会社資産は、引き継がないということで破格の取得価格となったようですが、投資銀行業務の人材確保によって、証券業務からのさらに一層の収益の増大を望んでいるようです。
もちろん、リーマンを始めとする最近の米国投資銀行各社の窮境は、「投資銀行モデルの落日」などとして報道されています。リーマンブラザーズは破綻消滅、ベアー・スターンズは、すでに米銀の大手JPモルガン・チェースが救済合併、業界第三位のメリルリンチは、米銀大手バンク・オブ・アメリカに救済合併されました。業界第一、第二位のゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは、銀行持ち株会社に移行する決断をしました。たしかに、米国において投資銀行という形態でビジネスを行なう金融機関は消滅したといってよいでしょう。
「賭博師の増大」
マルクスの指摘
かつて、マルクスは、証券業者の資金繰りについて次のように述べたことがあります。「信用制度の発達につれて、ロンドンのような大きな集中された貨幣市場がつくりだされるが、それらは同時にこれらの証券の取引の中心地でもある。銀行業者たちは、これらの商人〔証券取引業者〕連中に公衆の貨幣資本を大量に用立てるのであり、こうして賭博師一味が増大する」(マルクス『資本論』〈新日本出版社〉第三巻、八八五ページ)。
賭博師とは、証券業者のことですが、「現代の賭博師」たちも、資金繰りに困ると結局商業銀行頼みとなるのです。一九三三年グラス=スティーガル法は、投機を防ぐという観点から、商業銀行と投資銀行の間に厳しい垣根を設けましたが、現在その垣根は、日本においてもアメリカにおいても、完全に取り払われています。投資銀行の姿が消えたとしても、経済の証券化、金融の証券化にメスが入れられない限り、また再び投機の波が世界を席巻し、その後金融危機が訪れることを避けることはできないでしょう。(はぎわら・しんじろう 横浜国立大学教授)
(「赤旗」20081007)
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◎「投資銀行の姿が消えたとしても、経済の証券化、金融の証券化にメスが入れられない限り、また再び投機の波が世界を席巻し、その後金融危機が訪れることを避けることはできない」と。