学習通信080930
◎労働者派遣法……

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派遣法見直し
「労政審建議」
規制緩和の流れ転換

 労働政策審議会の労働需給部会が二十四日にまとめた労働者派遣法の見直しに関する建議は、長らく続いた規制緩和から規制強化に転じるものであり、労働者・国民の世論と運動の反映です。

 派遣法は一九八五年に制定。臨時的・一時的業務に限定し、常用雇用の代替としないことを原則にしていましたが、九九年の原則自由化、二〇〇三年の製造業解禁によって派遣労働への置き換えが急速にすすみました。

 「ワーキングプア」(働く貧困層)が社会問題となり、派遣法の改正を求める世論と運動が広がるなかで、政府・与党も日雇い派遣の原則禁止を言わざるをえなくなり、規制強化へとかじを切ることになったものです。

 原則自由化に反対したのが日本共産党だけだったことと比べると、「潮目の変化」と呼ぶべき情勢の進展を示しています。

 審議会で使用者側は、派遣期間の撤廃など全面的な自由化をねらってきましたが、破たんしました。日雇い派遣の原則禁止についても経済同友会など財界が反対し、審議会でも貨物運送などを例外扱いするよう求めましたが、退けられました。

 使用者側関係者が「途中から情勢が変わってしまった。業界は自主規制を打ち出したが、規制強化を求める世論に逆らえなかった」と語る通り、世論と運動が事態を突き動かしたことを示しています。

 抜本改正必要

 しかし、派遣法制定後初めて「政策転換」に転じるという重要性はあるものの、改正の中身は不十分といわなければなりません。

 最大の問題は、禁止するのは三十日内の雇用契約だけで、不安定雇用を生み出す大本にある「登録型派惹水仕事のあるときしか働けない)が野放しにされていることです。三十日超の契約さえ結べば日雇い派遣を続けることも可能です。これでは貧困解消を求める国民の願いにこたえることにはなりません。

 使い捨て労働を増大させた原則自由化前に戻し、派遣は常用雇用を原則にして、登録型派遣を厳しく制限することが求められます。

 違法行為をした派遣先が派遣労働者に雇用契約を申し込むよう行政が勧告する制度を設けることは、派遣先が偽装請負をしても何の責任も問われない現状に比べれば前進です。

 しかし、勧告は行政の裁量に委ねられるうえに、雇用しても期間工など不安定雇用にとどめることも制限されておらず、安定雇用の保障にはなりません。

 みなし雇用を

 松下プラズマディスプレイ偽装請負事件では大阪高裁が四月、派遣先と労働者の間に 「黙示の雇用契約が成立している」として松下側に期間の定めのない直接雇用を命じました。派遣先が派遣労働者を雇用しているとみなす「みなし雇用」制度を導入して雇用を守ることが必要です。

 派遣労働者の生活を守り、常用代替に歯止めをかけるためにも、派遣先労働者との均等待遇や派遣元に対するマージン(手数料)規制も不可欠です。

 派遣法改正は国会の特に移りますが、その前に行われる総選挙で抜本改正を掲げる勢力の前進が焦点です。財界による抵抗をはねのけて派遣法改正の流れをつくり出したのは世論と運動でした。派遣法を派遣で働く労働者を保護する法律に抜本改正させるたたかいはこれからです。(深山直人)
(「赤旗」20080925)

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「脱 日雇い」
戸惑う現場
厚労省、原則禁止へ

 日雇い派遣最大手のグッドウィル(東京・港)が不祥事で廃業してからニヵ月。日雇い派遣は「ワーキングプアを生む原因」と指摘され、厚生労働省の審議会はこのほど「三十日以内の日雇い派遣を原則禁止すべき」との報告書をまとめた。低賃金で不安定な雇用を強いられる労働者の保護が狙いだが、働く現場は急激な環境変化にとまどっている。

社員 「働く機械奪われる」
企業 「人材確保が困難」

違法撲滅には効果

 「自由が効く、すぐにお金がもらえる、煩わしくない、いろんな仕事が経験できる」。軽作業を扱う派遣会社三社に登録し、一時期、日雇い派遣だけで生計を立てていた都内在住の小野大さん(25)は、「日雇い」のメリットを列挙する。

 小野さんは秋田県の高校を卒業後、上京して都内の印刷会社に就職、正社員の作業員として五年間働いた。だがファイナンシャルプランナーを目指して〇七年夏に退社。資格を取るため専門学校に通い始めた。

 資格試験までの十ヵ月、専門学校の学費を払いながら生活するために利用したのが日雇い派遣。倉庫内での仕分け、模凝試験の試験官、居酒屋の洗い場。勉強の合間を縫って、こまめに稼いで食いつないだ。「貯金だけではとても生活できなかったので助かった」

 日雇い派遣は派遣会社に一度登録すれば、次々に携帯電話のメールで仕事情報が送られてくる。好きなときに好きな仕事を選び、嫌なら一日で辞められる。アルバイトではこうはいかない。

面接の手間なし

 日雇い派遣とアルバイト。なじみの薄い人には区別しにくいが、働く側から見ると大きく違う。日雇い派遣の職探しは携帯電話で派遣会社からの送信を待つだけ。アルバイトは職場に出向いて面接を受け、採用されないと仕事に就けない。

 企業の側から見ても派遣会社に手数料を払うだけで必要な人数を集めてくれる「日雇い」は便利だ。求人広告を出し、面接する手間が省ける。

 東京都中野区に住む宮沢裕美さん(47)はガラス造形作家。ガラス細工の作製と展示会準備にいそしむ傍ら、日雇いなど短期派遣で生計を立てている。創作や展示会の空き時間に「日雇い」で稼ぐ。宮沢さんにとっては面接がないのも「時間のロスがなくて魅力的」だ。日雇い派遣が禁止になると「とても不便」と顔を曇らせる。

 子育ての合間を使う主婦や、休日の副業にあてるサラリーマンなどにとっても「日雇い」は便利な働き方として定着している。「日雇い禁止」は彼らから稼ぐ手段を奪うことにもなりかねない。

 企業側からも悲鳴が上がっている。ある中堅引っ越し会社の幹部は「アルバイト募集で必要な人材が確保できるとは思えない。(日雇いが禁止になると)事業が継続できないかもしれない」と打ち明ける。

手軽さにワナ

 従来の日雇いに問題があったのは事実だ。給料のピンはねや二重派遣、港湾労働など禁止領域ヘの派遣など、違法行為がまかり通った。企業の側もコスト優先で安全の確保や教育を怠った。手軽さゆえ「仕事が面倒くさくなって当日キャンセル」という、働く側の倫理観低下を招いた側面も否定できない。

 そんな陰の部分が強調されたことで、日雇い派遣は「ワーキングプアの温床」と批判され、原則禁止の流れが生まれた。グッドウィルと並ぶ日雇い大手だったフルキャストも「脱日雇い」を急ぐ。

 だが日雇いが禁止された後、これまで日雇い派遣で働いてきた人々の雇用機会が保たれる保証はない。「しゃくし定規に禁止されたら、ワーキングプアがただのプアになってしまう」示野さん)。弱者保護の規制が弱者を圧迫する恐れもある。

空き時間
有効に活用

 厚生労働省は昨夏、約七百人の短期(日雇い)派遣労働者を対象に実態調査を実施した。日雇いで働く理由で最も多かったのは「日時を選べて便利だから」(四七・八%)。能動的に日雇いを選ぶ人も多い。こうしたニーズに対応し、「日雇い禁止」をにらんで新サービスを模索する動きもある。主婦派遣のビー・スタイル(東京・新宿)は「週三日、一日四時間」などの働き方を提案。ロケーションバリユー(東京・干代田)は携帯電話の位置情報機能を使って仕事情報を配信する。
(「日経」20080929)

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争論
派遣労働は規制すべきか

 ワーキングプアの温床といわれる非正規労働。その中核になる派遣労働の規制強化論が凶悪事件をきっかけに急浮上、これに反対する経済界などと真っ向から対立する。双方の代表的識者に聞いた。

●禁止は労働者に不利益
国際基督教大教授 八代 尚宏氏

──非正規労働者が増えてきた背景は。

 「規制緩和にその原因を求めるという通説は誤りで、派遣社員は非正社員の一割以下にすぎない。一九九〇年代以降の長期経済停滞の下で、企業は過大な正社員を抱え込めなくなった。欧米のように一時解雇という手段がとれないので、新卒採用抑制で調整、若年層に負担をしわ寄せした。また定年退職者の後も非正社員で補充した。低成長下で既存の正社員の雇用と年功賃金を守る企業の行動が、非正社員増加の大きな要因だ」

 「労働者側からみれば女性の就業者が増えたことも一因だ。正社員は拘束性が強く、残業や転勤も多いので今でいうワークライフバランスを求める人は派遣など非正社員を選んだ。こうした需要と供給両面から非正社員が増えたといえる」

──派遣労働がさまざまな批判を呼んでいるが。

 「派遣労働者でつくる最大の組合の調査では、自由度の高い派遣の働き方に満足している者も多く、派遣を『悪い働き方』ととらえがちな最近の風潮に『派遣労働者は傷ついている』と反発が強い。そもそも、派遣労働者には、補助的な仕事しかできないパートに比べて、派遣会社による教育訓練の機会もある。未熟練のパートが技術を身に着け正社員になりやすくするための橋渡しをする役割があり、質の高い派遣会社を育成すべきだ。ところが、現状は長く派遣のままではかわいそうだからとして、本人の意思に関係なく期間制限などの規制をかける。派遣労働者には迷惑な話だ」

──規制の理由は?

 「労働者派違法には常用労働代替防止、つまり正社員を派遣社員から守るという規定が明記されている。しかし、同じ正社員でも派遣会社(常用型)というだけで三年たつと、契約を切るか直接雇用に切り替えるかという義務が派遣先にかけられるのは行き過ぎだ。使用者側が派遣労働の規制緩和を求め、労働側がそれに反対するという労使対立でとらえられるが、むしろ、雇用と年功賃金を保障されている正社員と弱い立場の派遣社員との利害対立、労・労対立≠フ面もある」

──正社員側も間題?

 「今日の低成長下では、高成長期のような年功賃金を前提にして、その水準に非正社員の賃金を合わせるべきだとか、千七百万人の非正社員を全員正社員になどというのは非現実的である。非正社員の賃金引き上げと正社員の年功型賃金の是正が共に必要だ。派遣社員に一般的な仕事を任せ、正社員は企業内熟練を生かした仕事に特化することで共存できる」

──派遣労働規制はどう手直しすべきか。

 「日雇い派遣に問題が大きいという名目で、三十日以内の短期派遣全体を原則禁止へというのではなく、派遣労働者の権利が侵されないよう保護を強化する。違反した派遣事業者に対しては、雇用者が失業する業務停止処分だけでなく、違反の程度に応じた罰金の引き上げで、抑止効果を高めるべきだ。また、派遣先事業者に労災責任などで派遣元と共同責任を負わせることも必要だ」

──派遣期間や対象は。

 「まず、長く勤めることでスキルを身に付け正社員になりやすくするためにも、三年で打ち切りという期間制限は撤廃すべきだ。一方、日雇い派遣については未熟練の労働者の安全を確保するため、禁止すべき業種を列記する形での規制強化は必要だ。しかし、一部の専門的業務以外は全部ダメというのでは、現在働いている労働者の利益を損なう」



●「登録型」が最大の問題
NPO法人「派遣労働ネットワーク」理事長
中野 麻美氏

──非正規労働者の増加がもたらしたものは。

 「自立して生きるためには死ぬほど長時間働くしかないという矛盾した貧困労働が広がっている。個人の生活と未来だけでなく、年金など社会保障の基盤や国・自治体の財政基盤も崩しかねない社会全体の問題だ」

──特に派遣労働が批判されるが。

 「派遣労働は業者間の商取引関係を含んでいるので、労働の買いたたきにはもってこいだ。ちゅうちょなく人員調整でき、労働条件もダンピングできてユーザ(派遣先)には便利このうえない。しかし、働き手にはリスクが大きく、労働者を守るため、職業安定法は直接雇用の原則に基づいて派遣労働を禁止していた」

 「ところが、現実として第三者への労務供給が広範囲に利用されるようになり、経済界の要請を入れる形で一九八六年に労働者派違法が施行、合法化された。このとき、派遣労働者の雇用の安定と労働条件を保障し、派遣先で働く正規労働者の雇用を侵食しない(常用代替の防止)という二つの条件をつけたが、守らない派遣先の責任を追及する仕組みが不十分だった。違法を告発すると労働者が雇用を失うためさらなる脱法が横行、それに対応して規制をさらに緩和するという繰り返しのなかでダンピング競争が加速した」

 「製造業の実態は、低コスト化を狙う労働者派遣導入による矛盾の象徴だ。派遣社員への安全教育が不十分だったり、コミュニケーションギャップのために安全対策にひびが入り人命まで損なわれている。労働者派遣に象徴される『労働の商取引化』は、職場に亀裂を生み、みんなで仕事をする力をそいでしまう」

──規制を再強化すべきだと。

 「これほど社会全体に深刻な影響を与えている以上、規制緩和を続けるわけにはいかない。秋葉原の無差別殺傷事件の背景には、ユーザーの意向次第で職場が確保されるかどうか決まってしまうという力関係に翻弄(ほんろう)されて、将来の生活を展望することができなくなった労働現場の閉塞(へいそく)感がある」

──特にどこが問題か?

 「最大の問題は、登録型派遣を認めたことだ。登録型派遣では派遣契約が打ち切られると雇用もない。賃金も派遣料金に連動するので買いたたきの構造が鋭く働き手を襲う。システムエンジニアや翻訳、通訳など専門性の確立された業務なら、派遣先と対等に取引条件を交渉することができ、労働者の雇用や労働条件に影響はないはずだからそういう業務に限って登録型派遣を認めましょうということだったが、実際にはそうならなかった。その究極の姿が日々派遣(日雇い派遣)で、十年同じ現場で働いていて『日雇い』とか、一日の午前と午後で別の契約を結び、その数が年間四百本にもなる超細切れ派遣も利用されている」

──経済界には逆に緩和を求める意見もある。

 「経営者は良質な品物やサービスを提供するのに必要な熟練やモチベーションが、安定して続けられる雇用から生み出されることを忘れてしまったのではないか。公正に報われる待遇が保障されていればこそチャレンジ精神もわいてくる。人間であることを捨てなければならないような一日単位の細切れ労働で『頑張り』を求めるのは机上の空論だ。それで現場は大丈夫なのだろうか。グローバル化の流れに身を置いて、競争力をつけるために規制緩和が必要だという発想を断ち切らないと、矛盾はもっと広がる」

後記
 製造業での雇用上限が一年から三年に緩和されるのを見越し、多くのメーカーは二〇〇六年に工場に派遣労働者を大量投入した。正社員への切り替えか、契約打ち切りか──その期限を迎える来年は、中野氏が指摘するように経済界の姿勢が問われる。八代氏も違法派遣への罰則強化などによる派遣労働者の雇用環境保護の必要性では一致する。結局は雇用のありようが経済社会に持つ重要性を派遣先企業も再認識することがこの問題解決への原点ではないか。(共同通信編集委員・猿渡純一)

(「京都」20080913)

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派遣労働
本社アンケート

契約1年以上 5%のみ
短期更新繰り返す

 京都府と滋賀県の派遣労働者や求職者百人を対象に京都新聞社が実施した面談アンケート調査で、派遣会社と交わした雇用契約の期間が一年以上の人は五人にとどまることが分かった。短期契約の更新を四年間繰り返して同じ職場で働き続けるなど、派遣雇用の不安定な実態が浮き彫りになった。

 「派遣契約した期間はどのケースが一番多いか」と尋ねたところ、「三ヶ月」が二十一人と最も多く、「日雇い派遣(一日)」十八人、「一ヵ月」九人、「二ヵ月」八人と続いた。

 厚生労働相の諮問機関が労働者保護の側面から原則禁止を打ち出した「三十日以内の短期」に該当する人は、二十八人だった。

 面談調査結果によると、女性(32)は一ヵ月契約の更新を繰り返し同じ職場で四年間働いた。派遣先から「人件費が足りないので来なくていい」と月末に告げられた。男性(33)は日雇い派遣として年間約五十社で働いた。「仕事の空白が生じるのが一番恐ろしい」と四社の派遣会社に登録しているという。

 派遣事業が原則自由化された一八九九年以降に、派遣社員として働くようになった人は六十三人。法改正による規制緩和に伴い、派遣雇用が広がった一端を示す。回答者の世代は、バブル崩壊後の九〇年代に卒業時期を迎えた「就職氷河期」層を含む三十代が四十二人、二十代が三十六人。

●賃金「正社員以上」保証を
「派遣」規制強化
脇田滋・龍谷大教授に
課題を聞く

 政府は派遣雇用について規制強化を図ろうとしている。龍谷大の脇田滋教授(労働法・社会保障法)に課題を聞いた。

 脇田教授は厚労相の諮問機関が論議する規制強化策について「日雇い派遣の原則禁止や手数料公開など改正の範囲が限定的で不十分」と批判する。

 「雇用の不安定さを補うため、賃金面で正社員と同等かそれ以上の待遇を保証し、派遣期間終了後の正社員化という抜本的な改善を目指すべきだ」

 正規雇用の仕事に就くための支援策の重要性を指摘する。短期的に有効な施策として「派遣会社が派遣先と一体となって、パソコンなど仕事に必要な技術と能力向上のため派遣社員の教育訓練を徹底させるよう、派遣事業の許可基準を厳しく守らせる必要がある」と話す。
(「京都」20080930)

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◎「「ワーキングプア」(働く貧困層)が社会問題となり、派遣法の改正を求める世論と運動が広がるなかで、政府・与党も日雇い派遣の原則禁止を言わざるをえなくなり、規制強化へとかじを切ることに」と