学習通信080925
◎科学者の仕事は……

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 現代人は「科学的」という言葉に弱い。根拠の不確かな「疑似科学」まで無条件に信じ込む傾向がある。世にあふれる疑似科学とどう付き合えばいいのか。宇宙物理学者の池内了さんに聞いた。

「擬似科学」あふれる現代
効率追求 精査忘れる

 私たちはどれほどの「科学的に見える」説明に取り巻かれて暮らしていることだろうか。たとえば企業が売りだす新製品の効果効能は科学の言葉で説明される。それを聞くと何だかありがたい感じがして試してみたくなる。現代人は新しもの好きで、最新の技術や発明にはすぐに飛びつき、その恩恵を享受したいと恩う。そこに「疑似科学」が入りこむ余地が生まれる。

 私の見方では、疑似科学には血液型と性格を関連づける考え方など根拠がないもの、「マイナスイオン」など根拠不明のものなどがある。環境問題などきわめて複雑な事象を単純化して説明してしまうことも疑似科学の一種に加えていいだろう。個人が信じるぶんには大きな害はないが、集団が信じるようになると危険だ。企業が求職者の血液型を聞くなどは問題がある。

■一般の人たちは疑似科学とどう向き合えばいいのか。池内さんはこと科学については「保守的な態度」をとることの大切さを説く。

 科学には常にブラスとマイナスの面があるということを意識しなくてはならない。大きな利得の背後には大きな危険性が潜んでいるかもしれない。私は「長い間利用されてきたものには害は少ないはずだ」という理由から、昔からある一般的な胃薬を愛用している。科学的、技術的に進歩したように見える新製品よりも、安心な古いものを積極的に選ぶという態度があってもいい。

 現代人が疑似科学に心引かれる背景には、対象を精査し、反省するという習慣をなくしていることがある。私たちはすぐに答えを知りたがり、何事もただちに成果が出ることを求めてしまう。いたずらにスピードと効率を優先する社会が、疑似科学をうのみしてしまう人たちを生んでいるのではないか。

 もっともらしい言葉をにわかには信じず、疑い続けることはしんどい。だが私たちに今必要なのは、急ぐあまり空回りすることから脱却し、立ち止まって考える余裕を持つことだと私は思う。

■人々が疑似科学に振り回されないようにするには、科学者が真剣に社会に向き合うことと学校教育が重要だと池内さんはいう。

 科学者の仕事は研究と教育、そして科学について社会に伝えることだ。そのために啓蒙的な仕事にもっと積極的であっていいと思う。科学者の世界は論文を書いて学界での業績を積み上げることばかりが重視され、一般人と話し合うことをなおざりにしている人が多い。科学者は科学についての正しい知識を社会に伝える義務があるはずだ。

 もちろん学校教育も大切。学校では合理的な物事だけを教えているが、あえて血液型や占星術などの疑似科学を題材にして授業をするというのもいいだろう。根拠があいまいなものをどこかおかしいと感じる嗅覚は子供にも備わっている。理科のしっかりした教養を持った教師が指導すれば効果的だ。
(聞き手は文化部 千場達矢)
(「日経 夕刊」20080625)

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科学トピックス

地球温暖化の科学
「しんぶん赤旗」科学部
前田利夫

 地球温暖化への取り組みが全人類的課題として注目されています。地球温暖化とはどういう現象なのか、科学的解明はどのように進んできたのでしようか。

■人類の行為の結果として

 地球温暖化とは、地表の温度(気温や海水温)が年々上昇することです。地表の温度が上がったり下がったりすることは、地球の歴史のなかで何度もありました。現在問題になっている温暖化は、これが人類の行為の結果として起こっていること、かつて自然現象として起きていた温暖化にぐらべて進行が非常に速いことが特徴です。

 国連が組織し、世界各国の専門家が参加して地球温暖化問題を検討しているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は昨年、第4次評価報告書を発表しました。この報告書は、現在の温暖化が「人為起源の温室効果ガスの増加によってもたらされた」ことを、90%以上確実だと認定しました。温暖化をもたらした二酸化炭素(CO2)やメタンガスの大気中の濃度は、「過去65万年間の自然変動の範囲をはるかに上回っている」としています。

 地球温暖化の科学的研究の経緯については「温暖化の〈発見〉とは何か」(みすず書房、2005年発行)で詳しく紹介されています。メタンやCO2が温室効果ガスであることを最初に確かめたのは1859年、イギリスの科学者ジョン・ティンダルだといいます。地球は太陽光線を受けて熱せられます。

しかし、地球の熱は、宇宙空間に熱線(赤外線=可視光線より波長の長い電磁波)を放射することで失われます。地球に大気がなければ、地表の温度は実際よりずっと低くなることはティンダル以前から知られていました。ティンダルは、大気中のCO2が赤外線を吸収し、熱エネルギーが宇宙空間に逃げることを妨げ、地表面を温めることを実験で明らかにしました。

■大気中にわずか0.04%

 大気中のCO2濃度は、酸素や窒素濃度に比べればごくわずかです。窒素が78%、酸素が21%を占めるのに対し、CO2は0.03〜0.04%にすぎません。ごくわずかしか含まれていない大気中CO2の濃度変化が明確に示されたのは、1950年代から開始された、ハワイ島マウナロア山での測定データでした(図)。大気中のC02濃度の上昇が、18世紀後半の産業革命以降消費が増え続けている石炭や石油の燃焼によるものであることは明らかでした。

しかし、CO2濃度の上昇が、気候変動にどの程度の影響を与えるかについては、はっきりしたことをいえる裏づけがありませんでした。1971年にストックホルムで、「人間が気候に及ぼす影響」をテーマに、14力国の専門家による会合が開催されました。この会合の報告書で、「「人間の活動の結果として、今後100年のうちに」危険な気候シフトが起こる可能性がある」と科学者たちは明言しました。環境問題への関心の高まりのなかで、化石燃料業界などが中心となって、一部の科学者の応援を得ながら、地球温暖化の根拠のあやうさを大々的に宣伝するようになります。

 地球の気候システムは非常に複雑で、CO2の濃度上昇がどのような影響を及ぼすかを正確に予測することは難題でした。膨大な計算を瞬時に行えるスーバーコンピューターの出現で、影響の重大さが次第に説得力をもつようになってきたのです。

 IPCCが設立されたのは、1988年です。90年に発表された第1次評価報告書は、「人為起源の温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響を及ぼすおそれがある」という警告を発しました。評価報告書は回を重ねるごとに、影響の確実性と重大性を明らかにしてきました。これを受けて92年に気候変動枠組み条約が成立、国際的なとりきめに道を開きました。

■科学者の仕事を生かすこと

 将来の気候変動を厳密に予測することは現在でも難しい問題です。しかし、これまでの研究の積み重ねではっきりしてきたことがあります。人類の行為による温室効果ガスの排出によって地球が温暖化しつつあること、急激な温暖化によって破局的な事態が起こるのを避けるためには今後20〜30年の取り組みがきわめて重要であること、その取り組みのために要する費用は、取り組みを行わないために生ずる損失に比べてずっと少なくてすむことです。

 IPCCの総会で、国連の潘(パン)事務総長は、「科学者たちは仕事をした。今度は政治指導者たちが自分たちの仕事をする番だ」と強調しました。科学者の仕事を生かすことが切実に求められています。(まえだ としお)
(「月刊 学習 08年4月号」日本共産党中央委員会 p110−111)

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◎「科学者の仕事は研究と教育、そして科学について社会に伝えること」と。