学習通信080924
◎つまるところ雷鳴を聞いたら……
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《潮流》
たった一度だけ、下水道の中を見学した体験を、忘れられません。直径が四bを超えるトンネルでした
▼浅い濁流。しかし、橋の上からあかりを頼りに下流をながめると、水もろとも闇に吸い込まれてゆきそうで、足がすくみました。大雨が降ると、流れはトンネルの半分ほどを満たす暗黒の川に一変します
▼東京・豊島区で、下水道を修理していた五人の労働者が流される事故が起こりました。足首ぐらいの水かさが、あっという間に腰高まで増した、といいます。大雨で流れ込んだ濁流が、無残にも、巨大都市の市民生活や事業活動を地下の労働で支えていた人たちをさらっていきました
▼気象庁が「予測できない」となげく局地の豪雨。人の逃げ場を奪う急な増水。先月末、五人がのみ込まれた神戸・都賀川の暴れ水と同じです。雷も大暴れ。先日、東京近郊でとどろいた雷鳴に、一瞬怖がふるえました。もはや、ちょっとおかしみのある雷神のイメージではありません
▼友人は、興奮気味にいいました。「実際の戦争を知らないが、戦場の爆発音を想像した」。南米を旅してきた知り合いは、近ごろの雷雨の激しさは向こうで体験した熱帯のにわか雨(スコール)のようだ、と話します
▼亜熱帯化する日本、といわれます。もし確かなら、気候の変化にともない街づくりも考え直さないといけないでしょう。現実の東京は、雨水を下水や川に流し込むアスファルト・コンクリートばり、ヒートアイランド化を促す巨大ビルの建設もやみません。
(「赤旗」20080807)
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雷のしくみ
〜落雷から身を守る〜
遠くで「ゴロゴロ」は安全か電光と雷鳴に広くある誤解
河崎 善一朗
落雷の話をしたい。落雷には、まばゆいまでの光と、おどろおどろしいまでの音が伴う。ご存知のようにといってよいだろうか、前者を電光、後者を雷鳴という。電光を「雷光」と呼んだり、「稲光」とも呼んだりすることがあるけれど、「雷光」はあえて言うなら誤用である。余談ながら、広辞苑などの国語辞典を開いてみて確認して欲しい。電光の項には、てい
ねいな「定義」が示されているけれど、雷光の項には、わずか一行の説明である。
電光は瞬間に
雷鳴は音速で
余談はさておき、電光と雷鳴の話である。よく頂く質問に、「稲光を見てから、ゴロゴロを聞くまでの間隔が長かったら、落雷被害に遭いませんね?」というのがある。電光は一秒間に地球を七回り半、三十万`b走るのに対し、雷鳴は一秒間で三百b程度しか伝わらない。実は電光も雷鳴も落雷の瞬間に発生しており、電光はその速さから落雷の瞬間に私達の眼にとまる。一方、雷鳴は音速で伝わるので、通常電光から遅れ、落雷点までの距離は、両者の時間差に比例するのである。
だから十秒遅れなら三一`b、二十秒遅れなら六`b、三十秒遅れなら九`b離れた地点に落雷していることになる。十秒程度の時間差なら雷鳴も結構大きく安全だとは思われないだろうが、三十秒程度なら九`bも向こうだから安全だと判断されるらしい。
ただ私の答えは「否」で、その答えを聞いて質問された方の多くは、怪訝(けげん)そうな顔をされる。なまじ光と音の伝搬の速度の差をご存じのため、皮肉な言い回しながら、「生兵法は怪我のもと」というのが、私の本当に差し上げたい答えである。そして残念ながらこの誤解はかなり多くの方々にまで行き届いている。
雷雲の直径は
10〜15`にも
雷放電物理の研究者としては、大いに責任を感じるところで、今日はこの誤解を解くことにしたい。とはいえ稲光を見てから雷鳴を聞くまでの時間差で、大体の距離を知るという行為は間違ってはいない。ただ雷雲は直径十〜十五`b程度の広がりを持っており、落雷を起こす電気(正確には電荷)はその雷雲のあちらこちらに溜まっていると思って良い。
それにもうひとつ、周囲の環境に依存するとはいえ、雷鳴の届く範囲は十五`b程度であるから、「雷鳴が聞こえるという事は、頭上の雲が電荷をもった雷雲である」ということになる。だから今九`b向こうに落雷したからといって、次に真上から落っこちてこないとは限らない。いや、むしろ遠くの電荷が落雷でなくなったので、次は頭上の電荷が落雷する可能性も低くはないのである。
早い話、雷鳴を聞いたら、稲光からの時間が長かろうが短かろうが、危ない危ないと考えていただきたい。
ひろい場所で
雷鳴聞いたら
このように申し上げると、またまた訳知り顔のお方なら「そうですね、電気は速く走りますからね!」と、大阪風にいう突っ込みを入れて下さるが、電気の走るのが速いから次に来るのではなく、頭上の電荷が落雷してくるという点を強調しておきたい。つまるところ雷鳴を聞いたら、そしてそれがもし、駐車場などのだだっ広い場所や、登山路であったら、何はさておき安全な場所に逃げ込むことを考えて欲しいのである。
なお、安全地帯への逃避行についての詳細は、拙著『雷に魅せられて』(化学同人社刊)を読んでいただけれぱ幸い! この本は専門書ではなく、雷から身を守るための啓発書。中学生や高校生以上の方なら、十分読んでいただけるはずである。
拙著の宣伝はともかく、稲光のピカッを見てから、雷鳴のゴロゴロを聞くまでの時間差で、落雷地点までの距離を測るのは、家の中や車の中でと助言を差し上げ、クワバラ、クワバラと退散させていただくことにしよう。
(「赤旗」20080912)
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◎「南米を旅してきた知り合いは、近ごろの雷雨の激しさは向こうで体験した熱帯のにわか雨(スコール)のようだ」と。