学習通信080807
◎矛盾を放置したままでは……

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大機 小機

弱者に集中する経済の矛盾

 近代的な資本主義の誕生には、自らの労働力を商品として売る「自由」以外に生きていく手段を持たない労働者の登場が必要だった。マルクスの『資本論』によれば、産業革命や囲い込みによって、「生存の保証がことごとく奪い取られ」た手工業者や農奴が、次々と「自分自身の売り手に」転じていったという。賃金労働者は、自らの労働力を買ってくれる「市場が見つかればどこへでも」移動し、生存に必要なぎりぎりの給与で企業のために働き続けた。

 しかし企業が成長を続けるためには、労働者が生産したものを最終的には消費者である労働者に買ってもらう必要がある。企業が労働者をタダ同然で雇用すれば、生産は増えても商品の販売市場は拡大しないからだ。

 その意味で、労働者が経済的に豊かになるのと企業が成長することは矛盾しない。より高い賃金を労働者に支払い、生産性の上昇分を還元して労働者の購買力と消費意欲を高めて市場の飛躍的な拡大に成功したのが「二十世紀フォーディズム」である。

 当初は収奪の対象にすぎなかった労働者が、同時に消費者であることに企業が気づいたとき、両者の蜜月の時代が始まった。しかし、その蜜月もグローバル化のなかで再び危機に陥っている。国境を越えた多国籍企業の活動によって、生産者である労働者と購入者である消費者が分裂し始めているからだ。

 かつての閉鎖的な国民経済とは異なり、グローバルな経済では必ずしも労働者と消費者が一致する保証はない。むしろ多国籍企業は戦略的に両者を分断し、より安く生産し、より高く販売することで利益を拡大していると言える。

 グローバル経済で労働者と消費者の分断が可能になったのはモノを生産せず労働者=消費者を必要とせずにマネーだけを拡大再生産するバーチャルな金融市場がインターネット上に誕生したからだ。

 しかしこのバーチャルな金融市場には世界経済を混乱させる要因が潜んでいる。それはモノの生産とは無関係に、異常に膨らんだり急速に縮んだりする投機マネーの存在である。その影響を最も深刻に受けるのが、危険をヘッジできない弱者である。筆者が弱者に注目するのは、そこに経済の矛盾が集中しているからであり、矛盾を放置したままでは、企業成長も世界経済の発展も行き詰まってしまう恐れがあるからだ。(文鳥)
(「日経」20080311)

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「資本主義の限界」論と党綱領の立場

 つぎに、いわゆる「資本主義の限界」論と党綱領の立場について報告します。

背景には世界と日本の大きな変化がある

 この間、わが党が、アメリカ・財界中心という自民党政治の古い枠組みを問う論戦をすすめるなかで、そうした古い枠組みのさらに土台にある資本主義そのものの是非が問われる状況が生まれてきました。

 心ある財界人から「資本主義もゆきつくところまできた。新しい社会主義を考えなければならない」ということが言われ、『蟹工船』が若者を中心にブームとなり、マルクスに新しい関心が集まり、テレビ局が「資本主義は限界か」という企画をたて、その答えを日本共産党に求めてくる状況が生まれました。これは、わが党がこれまで体験したことのない新しい状況であります。そして、こうした動きがおこってきたことは偶然でなく、つぎのような世界と日本の大きな変化が背景にあります。

〈資本主義の矛盾が、 世界的な規模でかつてなく深いものに〉

 一つは、資本主義の矛盾が、世界的な規模でかつてなく深いものとなっていることです。綱領は、二十一世紀の世界情勢にかかわって、「巨大に発達した生産力を制御できないという資本主義の矛盾」が、「かつてない大きな規模と鋭さをもって現われている」とのべていますが、そのことが、世界的規模での貧困と飢餓の拡大、投機マネーの暴走による原油と穀物の高騰、英国政府の報告書が「いまだかつて見られなかった市場の失敗」と断じた地球温暖化問題など、多くの人々にとって身近な目に見える問題となって実感されています。

 北海道洞爺湖サミットでの主要八カ国の合意は、最大の焦点となった温暖化問題について、先進国としての削減目標は、中期目標はおろか、長期目標も示せず、先進国としての責任を放棄するものとなりました。投機マネーも規制に踏み込むことはできませんでした。人類の生存にかかわる重大問題に、処方せんを示しえない姿が浮き彫りとなりました。

〈ニセの「社会主義」の看板を掲げていたソ連の崩壊〉

 二つめは、ニセの「社会主義」の看板を掲げていたソ連が崩壊したことによって、「ソ連=社会主義」という誤解と偏見をとりのぞく基盤が広がり、資本主義の矛盾がみえやすくなったということです。ソ連が存在していた時代には、資本主義の矛盾に直面していた人々の関心が、マルクスや科学的社会主義に向かわずに、「ソ連を見よ」と目が曇らされていたのが、ソ連の崩壊によってこの曇りが晴れ、見晴らしが良くなった。

 日本共産党が、ソ連の覇権主義と不屈にたたかい、科学的社会主義の立場に立脚して元気に活動していることが、世界の資本主義の矛盾の深まり、ソ連崩壊という状況のもとで、新しい注目をあびているのであります。

〈日本では「ルールなき資本主義」「新自由主義」で資本主義の害悪がむきだしに〉

 三つめに、とくに日本では、「新自由主義」「市場原理主義」の経済政策が強行されるもとで、貧困が拡大し、投機マネーは野放しにされ、環境問題では無為無策など、「ルールなき資本主義」がいっそう野蛮な姿をとってあらわれ、資本主義の本性と害悪がむき出しになっています。

 経済政策をめぐっても、国家が経済に介入することで資本主義の矛盾を緩和しようとしたケインズ主義がゆきづまり、それに代わった「新自由主義」も破たんを深めるもとで、その指導理論を失ってさまよう状況があります。
(「第6回中央委員会総会 志位委員長の幹部会報告」「赤旗」20080713)

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◎「国家が経済に介入することで資本主義の矛盾を緩和しようとしたケインズ主義がゆきづまり、それに代わった「新自由主義」も破たんを深めるもとで、その指導理論を失ってさまよう状況」と。