学習通信080625
◎政府の憲法解釈変更を求めるのは過去に例がありません……

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集団的自衛権の容認を
安保法制懇「4類型」提言

日米同盟強化
憲法解釈 変更が必要

 安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(座長、柳井俊二元駐米大使)は二十四日、集団的自衛権行使のための憲法解釈変更などを柱とした報告書をまとめ、福田康夫首相に提出した。その後、首相は記者団に憲法解釈変更について「今のところ、変えるなんて話をしたことはない。憲法は憲法だ」と即座に否定。ただ、報告書が示す自衛隊の国際貢献の推進などは、アフガニスタン本土での支援活動や恒久法制定の論議で取り上げられる可能性もある。

首相、解釈見直し否定

 懇談会は集団的自衛権の行使に前向きだった安倍晋三前首相の下で昨年五月に発足。安倍氏が検討を指示した@公海上の米艦防護A弾道ミサイル防衛B国連平和維持活動(PKO)などでの自衛隊の武器使用CPKOなどでの他国への後方支援──の四類型で提言をまとめた。

 米艦船の防護やミサイル防衛では、集団的自衛権の行使を認めるべきだとし、国際平和協力との関係では憲法九条が禁じる武力行使に当たるとされる「自衛隊による他国部隊の駆けつけ警護」を認めるよう武器使用基準の緩和を提言。他国部隊への後方支援についても戦闘地域では「他国の武力行使と一体化」を理由に禁じている憲法解釈の見直しを求めた。

 首相は就任当初から憲法解釈変更に慎重。報告書についても「現実性のない内容では困る」とし、国際平和協力を軸にした内容への差し替えを求めていた。

 政府内には報告書の実現性を疑問視する向きも多い。実際、懇談会の会合は昨年八月を最後に、福田政権発足後は一度も開かず、首相も記者団に「報告をいただいたが、内容は見ていない」と素っ気ない対応。報告書提出後の柳井氏の記者会見も首相官邸ではなく内閣府となり、首相官邸側との距離が垣間見えた。

 ただ、首相は同日、恒久法制定を検討してきた与党ブロジェクトチームの責任者である自民党の山崎拓外交調査会長が提案したPKO協力法改正による活動内容拡大について「一つの選択肢」と表明。報告書が提言した武器使用基準の援和や後方支援の拡大は検討する方針を示唆した。

 臨時国会ではインド洋での給油活動の延長問題に絡み自衛隊のアフガニスタンヘの派遣なども論点。政府内には「報告書が与野党協議などの呼び水になる可能性はある」との見方も出ている。

▼集団的自衛権
 同盟国など密接な関係にある他国を第三国が武力攻撃した場合に、自国が直接攻撃を受けていなくても自国への武力行使とみなして実力で阻止する権利。

 政府は集団的自衛権の行使について、憲法九条の理念から「自衛のための必要最小限度の範囲を超える」と解釈、行使はできないとの立場だ。
(「日経」20080625)

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安保法制懇の報告要旨

 安倍晋三前首相は我が国を巡る安全保障環境の変化を踏まえて法的基盤の再検討を指示し、四つの事例を提示した。憲法解釈を含む安全保障の法的基盤は不断に再検討されなければならない。四類型について、これまでの政府解釈の踏襲では今日の安全保障環境の重要な間題に対処することは困難だ。新しい解釈の採用が必要だ。

 @日米が公海で共同活動している際に米蔵に危険が及んだ場合、防護しうるようにすることは同盟国相互の信頼関係の維持・強化のため不可欠だ。これまでの憲法解釈および現行法の規定では、自衛隊は極めて例外的な場合にしか米艦を防護できず、対艦ミサイル攻撃にも対処できない。集団的自衛権の行使を認める必要がある。このような集団的自衛権の行使は我が国の安全保障と密接に関係する場合の限定的なものだ。

 A米国に向かうかもしれない弾道ミサイルの迎撃については、従来の自衛権概念や国内手続きを前提としていては十分に対応できない。我が国が撃ち落とす能力を有するにもかかわらず撃ち落とさないことは、日米同盟を根幹から揺るがすことになるので、絶対に避けなければならない。この場合も集団的自衛権の行使によらざるを得ない。

 BPKO活動等のため派遣される自衛隊に認められている武器使用は自己の防護や武器等の防護のためのみとされる。こうした現状は常識に反し、国際社会の非難の対象になりうる。PKO等の国際的な平和活動への参加は憲法九条で禁止されないと整理すべきで、自己防護に加え、他国の部隊や要員への駆けつけ警護および任務遂行のための武器使用を認めるべきだ。

 C同じPKO活動等に参加している他国の活動に対する後方支援について、従来「他国の武力行使と一体化」する場合には憲法九条で禁止される武力の行使に当たるおそれがあるとされてきた。補給、輸送、医療等の本来、武力行使ではあり得ない後方支援と、他国の武力行使との関係については、これまでの「一体化」論をやめ、政策的妥当性の問題として総合的に検討して政策決定すべきである。

 以上の提言には、憲法解釈を変更することが含まれている。解釈の変更は憲法改正を必要とするものではない。

 我が国が新たな安保政策の下で何を行わないか、明確な制約を示す。

第一に、法律による制約。米艦防護およびミサイル防衛に関して、集団的自衛権に基づいてとりうる措置は関係法律で範囲および手続きを規定する。国際平和活動への参加については、自衛隊に与えられる任務と武器使用の手続きおよび限度を国際平和協力に関する一般法等で定める。

 第二に、国際的な平和活動に参加する場合であって、武器使用の蓋然(がいぜん)性の高いものについては自衛隊部隊の海外派遣を国会承認にかからしめることとする。

 第三に、基本的安全保障政策を確定する。集団的自衛権に基づいて米国に協力する場合は基本方針を閣議決定等の手続きを経て確定する。
 国際的な平和活動に関する武器使用と後方支援に関する提言は政府・与党で検討されている一般法制定の過程で実現されることを期待する。
(「日経」20080625)

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集団的自衛権の憲法解釈
安保法制懇、変更を提言

 安倍晋三前首相当時に設置され、政府の憲法解釈を検討してきた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井俊二元駐米大使)は二十四日、集団的自衛権の行使は認められないとする解釈の変更を求めた報告書を福田康夫首相に提出しました。

 首相の諮問機関とはいえ、政府の憲法解釈変更を求めるのは過去に例がありません。福田首相は「中身を研究する」と述べ、解釈変更に慎重な姿勢を示しました。

 集団的自衛権とは、自国の防衛とは無関係の、他国の「防衛」に参加する行為で、憲法九条が定める「自衛のための最小限」の実力行使を超えるものであり、「憲法上認められない」(一九八一年の政府答弁)というのが現行解釈です。

 これに対して報告書は、「憲法九条は明文上、集団的自衛権の行使を禁じていない」「安全保障環境が変わった」などの理由を挙げて、集団的自衛権の行使は憲法上「可能」としています。

 安倍前首相は昨年五月の第一回会合で、(1)公海で並走中の米艦船が攻撃を受けた場合の自衛艦の応戦(2)米国を狙った弾道ミサイルの迎撃(3)海外派兵中に他国軍が攻撃を受けた際に駆けつけて反撃(4)米軍や多国籍軍への後方支援―の四類型について検討を指示しました。

 報告書はいずれについても、「日米同盟の維持・強化に不可欠」などとして集団的自衛権の行使を求めています。

 また、自衛隊の武器使用の拡大について、「政府与党で検討されている一般法制定の過程で実現されることを期待」すると表明。戦闘行為につながる「かけつけ警護」なども可能とするなど、海外派兵恒久法の制定を促しています。

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解説
安全保障の環境とずれ

 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」は、集団的自衛権の行使を当然視するメンバーで固められています。そういう意味で、政府の憲法解釈変更を求めた報告書は「結論先にありき」でした。

 懇談会を設置した安倍前首相は報告書を昨年秋までに提出させ、ただちに解釈改憲に着手する考えでしたが、昨年七月の参院選大敗で野望は打ち砕かれました。

 それでも懇談会メンバーは今年に入って非公式の「意見交換会」を重ね、二十四日に報告書を提出したのです。ただちに憲法九条の明文改憲が実現できなくても、何とか解釈改憲だけは実現して、日米同盟強化と海外派兵拡大の“障壁”となっている憲法九条を骨抜きにしようという改憲派の執念を感じさせます。

 報告書は、北朝鮮の核・ミサイル開発など「安全保障環境の変化」を憲法解釈変更の最大の根拠としています。「集団的自衛権は憲法上、行使できない」とする政府解釈では、弾道ミサイルや国際テロなどの問題に「適切に対処できない」というのです。

 しかし、いまや報告書自体が、「安全保障環境の変化」からずれています。

 北朝鮮の核・ミサイル問題では、北朝鮮が核計画を申告し、米国が「テロ支援国家」指定から解除する方向で動いています。北朝鮮が米国を弾道ミサイルで攻撃し、日本が応戦するという想定自体が、国際情勢に対応できなくなっています。

 しかも、変更が必要なのは「(従来の)解釈では日米同盟を効果的に維持することに適合し得ない」からというのです。「米艦防護」も「弾道ミサイル迎撃」も「日米同盟のため」というのが唯一の理由です。

 ブッシュ米政権の先制攻撃戦略が幅を利かせていた情勢を前提として、それに「適合」するために憲法解釈を変えるなどということは、二重三重に憲法を愚弄(ぐろう)するものです。(竹下岳)
(「赤旗」20080625)

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◎「何とか解釈改憲だけは実現して、日米同盟強化と海外派兵拡大の“障壁”となっている憲法九条を骨抜きにしようという改憲派の執念を感じさせます」と。