学習通信080624
◎親になることは、人生のなかで最も難しい課題の一つ……
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07年度
府内相談数27%増
児童虐待485件 過去最高
心理的暴力も100件超す
地域の連携で表面化
京都府は二十二日までに、府内(京都市除く)に三ヵ所ある児童相談所の二〇〇七年度活動状況をまとめた。相談件数は四百八十五件と、前年度より百四件(27%)増加し、過去最高となった。子どもの一時保護は百十六件と三十五件(43%)増え、府は「地域の見守リでは対応できない困難なケースが増えてきている」と分析している。
相談内容を分類すると、身体的暴力が百九十九件(前年度比21%増)と最も多く、全体の約四割を占めた。次いで、食事や風呂、治療などを提供しない養育拒否・怠慢(ネグレクト)が百六十三件(同8%増)。暴言や無視などの心理的暴力も百二件(同75%増)と急増していた。
虐待者は、実母が三百一件と全体の約六割、実父が百十五件と約二割だった。内縁の夫など実父以外の父親が三十九件、実母以外の母親が十件あった。
相談が寄せられた経路は、市福祉事務所からが百四十二件と前年度の約四倍、警察からも七十二件と前年度の一・七倍に増えた。関係機関の情報共有化が進み始めたため、とみられる。
児童相談所別の相談件数は、宇治が百七十件(前年度比27%増)、京都が百六十四件(同33%増)、福知山が百五十一件(同21%増)だった。
一方、京都市児童相談所の〇七年度の相談対応件数は五百二十八件で、前年度より4%減った。
府家庭支援課は「地域の連携強化により、これまで潜在化していた問題が表に出てきている」とみている。(三村智哉)
(「京都」20080623)
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▼いつでも、どこでも、だれでも虐待者になる現代社会
現代社会において親になることは、人生のなかで最も難しい課題の一つになっています。親たちの生活は仕事と子育てに追われ、いつでも、どこでも、だれでもが虐侍者になる可能性をもっているのが実際です。現代家族の養育機能は確実に低下しており、子育て家庭への公的な援助が必要になっています。
現代の家族に現われている養育機能障害には三つあります。
@養育形態障害(夫婦二人による養育を基本形態と考えれば、ひとり親家庭になると、子育ては母親か父親に全面的に依存してしまっている状況となって、形態上はハンデイを負っていると言えます)、A養育機能障害(養育をおこなうことにさまざまな障害を抱えている状況で、もっとも鋭く現われている間題は虐待間題です)、B社会生活障害(リストラによる経済的な間題を抱えたり、地域からの孤立した生活を余儀なくされている状況など)。
この三つの障害を現代は抱えやすくなっているのです。このような養育機能が低下あるいは障害を抱えている家族に虐待問題が発生しやすいと言えます。その点で言えば、現代家族への子育て支援策が求められていることは言うまでもありませんが、いま問われていることはその支援の質です。介入・援助の内容です。
《虐待を繰り返す親の特徴》
虐待問題は繰り返されます。そしてより重度化・深刻化していくという傾向をもっています。虐待を繰り返すということは、自らの判断でストップをかけることができないという虐待の悪循環に陥ってしまうことです。虐待の現実を見るとき、親を加害者として突き放して見るのではなく、援助を求めている存在として捉えていく必要があります。介入・支援をおこなっていくためには、そうした悪循環に陥りやすい親の特徴を知っておくことは重要でしょう。
虐待を繰り返す親の第一の特徴は、自己評価を低下させていくサイクルに陥っていることです。虐待をおこなう親は、子どものなかに自らが投影されており、子どものなかに自らの嫌悪している面を見ていることが少なくありません。「あまりにも自分に似ていて、嫌になってしまうのです!」「自分を見ているようで……」という親の言葉をよく聞くところに表われています。そして虐待をすることで、また自己嫌悪感にさいなまれ、さらに自己評価を低めていくという自己評価の低下サイクルに陥っていくのです。
第二の特徴として、親は自らの行為を虐待であるとは認識していないことがあげられます。
実際に虐待をしている親は、自らが虐待している内容がかなりひどいものであっても、虐待をしているとは思っていません。親の多くは、自らの行為を子育てに必要な「しつけ」や「教育」であると考えているのです。一方で、期待をかけすぎるあまり虐待を誘発していることもあります。
ですから、虐待問題へのアプローチは、親の現実を受け止めることからはじまります。親の現実を受け止めるとは、子育てについて暴力的な方法しか知らないこと、生活上のストレスにさらされていること、社会的に孤立した存在であること、そして子どもにマイナスな子育てをしているとは思っていないことなど、その親の現実をしっかりと見る必要があります。
第三の特徴は、社会的に孤立をしていることが多いことです。虐待をしている親は、人間関係を作ることが稚拙で、コミュニケーション能力に乏しい傾向にあります。小さなストレスでも、それをともに背負ってくれる人がいないと、ストレスはだんだんと大きくなっていくものです。親の小言や不満、たわいもないグチを聞くことも、親とのかかわりでは重要な意味を待っています。
第四にストレスを解消する方法を知らないことをあげることができます。生活上のストレスは、狭い住宅、長時間労働・低賃金、失業、夫婦不和・夫婦間暴力、多子、多胎児、障害児、期待に合わない子、親族との断絶、地域住民との関係悪化などの問題を背景にしていることが多いものです。こうしたストレスや衝突との折り合いをつけることができず、解決の展望を見出せないでいます。
(浅井 春夫著「保育の底力」新日本出版社 p154-156)
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子どもの権利条約と虐待問題
子ども虐待(子どもへの不適切なかかわり方)とは何でしょう。端的に言えば子どもの権利を踏みにじる行為です。そこで子どもの権利条約にもとづいて、子どもの権利を守り発展させる視点から虐待問題を検討してみましょう。
子どもの権利条約は、緊急かつ優先の課題の一つとして虐待問題を主に三つの条項でとりあげています。これに呼応して世界的には、家庭における虐待への対応、性的虐待問題、さらには子ども買春・子どもポルノ問題が子どもの人権を守る緊急かつ重要課題としてとりくまれているところです。わが国においてもこの課題を子どもの権利条約を生かすとりくみとして正面に位置づけていくことが求められます。
いま子どもの権利条約の三つの条項で虐待間題がとりあげられていると言いました。その条項を紹介しましょう。
一つ目は、第一九条(親による虐待・放任・搾取からの保護)です。
ここでは親や保護者らは「子どもの養育中に、あらゆる形態の身体的または精神的な暴力、侵害または怠慢な取扱い、性的虐待を含む不当な取扱いまたは搾取から子どもを保護するためにあらゆる適当な立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとる」ことが謳われています。
この条項に言う「身体的または精神的な暴力、侵害」に含まれているものは、@身体的虐待、A心理的虐待、B「怠慢な取扱い」=ネグレクト、C「性的虐待」、D「不当な取扱いまたは搾取」=子どもの人身売買、E子どもの買春・ポルノなどです。
とくにここでは親や法定保護者だけでなく、「子どもの養育をする他の者」つまり保育者、児童福祉実践者などの専門職が含まれており、専門職による虐待からの保護も課題として位置づけられています。その上で「あらゆる適当な立法上、行政上、社会上および教育上の措置をとる」ことが締約国の責務として規定されているわけですから、日本政府および地方自治体、関係団体があらゆる適当な措置をとっているかどうかが鋭く間われていると言えるでしょう。
二つ目の第三四条(性的搾取・虐待からの保護)では、「あらゆる形態の性的搾取および性的虐待から子どもを保護することを約束する」ことが謳われており、具体的な性的搾取・虐待の内容として、
「(a)何らかの不法な性的行為に従事するよう子どもを勧誘または強制すること。(b)売春または他の不法な性的業務に子どもを搾取的に使用すること。(c)ポルノ的な実演または題材に子どもを搾取的に使用すること」が掲げられています。
この点に関わってわが国でも、「児童買春・児童ポルノ禁止法」(正式名称「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護に関する法律」)が一九九九年一一月一日に施行されました。この法律は、子どもに対する性的搾取・性的虐待から子どもの権利を保護することを目的にしたもので、公序良俗の保全や児童の健全育成を目的とした「従来の性に関する刑事法的な保護法益論とは異なる出発点に立脚している」と言えます。
この児童買春・児童ポルノに対する厳しい国際的な動向と子どもの権利条約の批准を背景に、これまで野放し状態にされてきたわが国のこの分野の課題にようやく対応したことになります。子どもを対象とした買春行為を明確に犯罪として法律的な対応をしたものとなりました。
三つ目は第三九条(犠牲になった子どもの心身の回復と社会復帰)で、犠牲になった子どもが、「身体的および心理的回復ならびに社会復帰することを促進するためにあらゆる適当な措置をとる。当該回復及び復帰は、子どもの健康、自尊心および尊厳を育む環境の中で行われる」ことが約束されています。
けれども現在、日本では被虐待児をケアする施設・専門病院に必要な機能が整備されているとは言えません。児童養護施設は虐待を受けた子どもたちにとっては、人権を守る最後の砦ですが、現状は全国的に満杯状態で入所が困難な状況にあります。また臨床心理土が配置されつつありますが、常勤配置はまだまだ少ないのが現状です。
児童養護施設の現状は、残念ながら子どもの虐待体験・トラウマを癒し治療する場とはなっていません。
今後、虐待問題に関わって言えば、身体的治療や心理的ケアを含めた回復と復帰のとりくみが「子どもの健康、自尊心および尊厳を育む環境」の整備という面から検討されることが求められるでしょう。
直接、虐待に言及した条項ではありませんが、学校がおこなう子どもへの懲戒についてふれている第ニ八条(教育への権利)の第二項について補足的に述べておきます。
学校懲戒のみならず児童福祉施設や保育所などにおけるペナルティのあり方についての基本的な考え方が明示されているからです。ここでは懲戒行為が「子どもの人間の尊厳と一致する方法」でおこなわれることが求められています。このことは重要な指摘です。
以上のように、子どもの権利条約では、子ども虐待、性的虐待・搾取について締約国の責任を明記しています。子どものために、この条約の全面的な実施をもとめていくことは、虐待問題においても私たちに問われている課題です。
(浅井 春夫著「保育の底力」新日本出版社 p143-146)
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◎「子どものために、この条約(子どもの権利条約)の全面的な実施をもとめていくことは、虐待問題においても私たちに問われている課題」と。