学習通信080617
◎「密約」は認められません。

■━━━━━

米兵事件、飲酒も「公務」
 日米地位協定 56年合意

裁判権認めず
現在も適用続く

 日本に駐留する米兵らの事件をめぐり、日米両政府が一九五六年の合同委員会で地位協定に基づき日本側に第一次裁判権がないとされる「公務中」の範囲を通勤や職場での飲酒にまで拡大し、米側に有利な運用で合意したことが、十八日までに機密解除された米側公文書などで分かった。在日米軍関係者によると、合意内容は現在も適用されているという。

 地位協定は公務中の米兵犯罪について米側が第一次裁判権を有すると規定しているが公務の範囲を明記せず、これまで合意内容は明らかにされていなかった。米側が合意後「有利に処理することに成功した」と評価していたことも判明した。

 文書は日米関係史を研究する専門家の新原昭治氏が、米国立公文書館などで見つけた。

 在日米大使館が七〇年二月二十八日、当時フィリピン政府と地位協定締結に向け協議していた現地の米大使館にあてた「日米地位協定」と題した公電は、五四年から五五年にかけて兵庫県や福岡県などで日本人計四人が死傷した米兵らによる四件の交通事故に言及した。

 四件はいずれも帰宅途中などで公務中に当たるかどうかをめぐって日米で議論になり、五六年三月の合同委で宿舎、住居と勤務地の往復や宿舎や勤務地で開かれる「公の催事」での飲酒も公務に含めると合意した。

 法務省刑事局長が同年四月、全国の検事正らにあてた通達は、勤務地への往復時の交通事故を公務中として処理するよう指示。参考資料として合意までの協議内容を記した前年十一月の合同委刑事裁判権分科委員会議事録を添付した。

 分科委員会で日本側は公の催事を狭く解釈するべきだとしながら、将校らが出席していれば公務と認め、事故原因とみなされなければ勤務中の飲酒も公務とすることに同意。通勤途中の「寄り道」を公務に含めるかどうかも「ケースごとに考究する」とした。

 その後、四件は公務中の事故として処理された。交通事故に関し問題となった公務の範囲は、ほかの事件でも同様に解釈されているという。

〈解説〉
妥協の構図浮き彫り

 米兵の事件処理に関する日米合同委員会の合意を受け、法務省が出した通達に添付された合同委分科委員会議事録は、地位協定に基づき日本の裁判権が認められない「公務」の範囲を広げようとする米側と、抵抗しながらも玉虫色の拡大解釈に同意する日本側という地位協定の運用をめぐる「妥協の構図」を浮き彫りにしている。

 日米合意では、米兵が公務中だったと示す証明書を米側が発行すれば「十分な証拠となる」と規定。その上で米側は公務の定義をあらかじめ拡大することで、有利な運用を確立しようとした。

 こうした米側の方針を日本側が受け入れた結果、合意後に起きた事件で「公務の内容に関する日本側からの照会が数件あったものの、すべての案件が米側に有利に処理された」と米側公文書は明かしている。

 米側に有利な運用は現在も変わらない。二〇〇五年に東京都八王子市で小学生ら三人が重軽傷を負うひき逃げ事件を起こし逮捕された米兵が、公務中を理由に即日釈放されたケースなどで、公務の範囲が問題とされたが日本政府は「相手国との信頼関係もあり、回答できない」としてきた。

 日米両政府が「重要な案件以外、裁判権を放棄する」という米側に有利な密約を結んでいたことも判明している。地位協定が国民の権利を侵害していないかどうかを検証するためにも、運用実態について政府の情報開示が求められる。
(「京都新聞 夕刊」20080616)

■━━━━━

米兵 職場飲酒も「公務」
56年合意 日本に裁判権なし
米解禁文書で判明

 日本に駐留する米兵が職場で飲酒をし、帰宅途中に事件・事故を起こしても、「公務中」とすることで日米両政府が合意していたことが分かりました。合意したのは一九五六年の合同委員会。国際問題研究者の新原昭治氏が米国立公文書館で入手した米政府解禁文書などによるものです。

 米軍の特権を定めた地位協定は、米兵が起こした事件・事故が「公務執行中」であれば一次裁判権が米側にあると規定しており、日本側では裁けません。(一七条三項a)

 新原氏が入手した「日米地位協定‥刑事裁判権」と題する在日米大使館の秘密電報(七〇年二月二十八日)によると、日米間で五五年、帰宅途中などに発生した四件の交通事故(あわせて日本人四人が死傷)にかかわり「公務中」の範囲が議論になりました。その結果、「公務」とは、宿舎または住居と勤務場所との往復行為ばかりでなく、その際に、出席を要求された「公の催事」で飲酒をした場合も含めることが、五六年三月二十八日の日米合同委員会で合意されました。

 これを受けて法務省刑事局長が同年四月十一日に検事総長などに出した通達は、今後、合意通りに事故を処理するよう指示。参照として、合同委員会の下に設置されている刑事裁判権分科委員会が五五年十一月二十一日に開いた会議の公式議事録を掲載しました。

 同議事録によると、▽「公の催事」以外で飲酒し、帰宅途中に交通事故を起こした場合でも、飲酒が事故の原因でなければ公務の性格は失わない▽社交上の飲酒でも将校らが出席していれば「公の催事」と認める▽宿舎・住居と勤務場所との間での「寄り道」を公務に含めるかどうかは個々のケースごとに判断する―などの趣旨で日米が合意したことなども明らかになっています。
(「赤旗」20080617)

■━━━━━

焦点 論点
日米「密約」
安保交渉記録を公表すべきだ

 日米両政府が一九六〇年に日米安保条約を改定したさい取り交わした「密約」が次々にあきらかになっていますが、こんどは、朝鮮有事の「戦闘作戦密約」が発覚しました。(『文芸春秋』七月号、「しんぶん赤旗」五日付参照)

 「密約」は、安保条約の実態のなかで生きています。アメリカの情報公開法にもとづいて入手した「密約」文書を示されても「知らぬ、存ぜぬ」をきめこむ政府の態度を許しては、日本の平和も安全も守れません。

米軍の作戦を保障
 これまでの「密約」は、核持ち込み、戦闘作戦行動、米軍地位協定の運用など、安保条約の根幹にかかわる諸分野におよんでいます。

 核持ち込みでは、二〇〇〇年に日本共産党の不破哲三委員長(当時)が、米情報公開法にもとづいて入手した「討論記録」という形式の「密約」があります。一九六〇年一月六日に藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日大使が署名しています。

 核兵器を日本領土に持ち込むことや核基地建設は事前協議の対象にするが、核兵器積載艦船の寄港や核兵器搭載機の飛来は「現行の手続きに影響を与えるものとは解されない」というものです。旧安保条約下でおこなっていた核寄港・飛来をそのまま認める合意です。

 三年後の国会で池田勇人首相が「核弾頭を持った船は、日本に寄港はしてもらわない」(六三年)と答弁するや、アメリカ政府は「密約」を大平外相に説明し、池田首相らの答弁が「密約」に反することを悟らせました。また、沖縄返還(七二年)のさいに「核持ち込み密約」を取り交わしたのも六〇年「密約」が厳然と生きているからです。

 今回明らかになった「密約」は、春名幹男名大教授が入手した戦闘作戦に関するものです。藤山外相とマッカーサー大使が六〇年六月二十三日に署名したもので、「密約」文書そのものが発覚したのははじめてです。藤山外相は、朝鮮有事のさい、在日米軍が朝鮮で戦闘作戦をするために「日本における施設および区域を使用してもよい」と言明しています。制限なしの事前同意でありきわめて重大です。六九年に当時の佐藤栄作首相が、朝鮮出撃のさいの事前協議に「前向き、かつすみやかに態度を決する」とのべたのもこの「密約」があるからです。

 朝鮮半島の出来事は日本の平和と安全に直結します。日本の自主的決定を放棄し、軍事優先で動くアメリカに日本の運命を預ける「密約」が許されるはずはありません。

 「核密約」も「戦闘作戦密約」も政府の国民への説明と違います。

 事前協議制度について政府は、「国民が知らないうちに核兵器が持ち込まれたりすることがないように」「日本がその意に反して戦争に巻き込まれないように」するためだと説明してきました。しかし、「密約」は、国会も国民もまったく知らない間に、核兵器を持ち込ませ、戦闘作戦行動を認めることによって日本を戦争にまきこむものでしかありません。

 国民の反核・反戦の願いにそうふりをしながら、裏で「密約」を結ぶのは国民に対する裏切りです。きびしい追及が必要です。

主権侵害許さない
 「密約」は、政府が事態に則して検討し決定する道も、憲法で「国権の最高機関」と明記されている国会の決定権もはじめから排除しています。主権侵害の「密約」は認められません。日米安保交渉の全記録を公表させることが不可欠です。

 憲法とそのもとで日本国民がつちかってきた平和原則に違反する「密約」の廃棄は当然です。  論説委員会 山崎静雄
(「赤旗」20080615)

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
◎「地位協定が国民の権利を侵害していないかどうかを検証するためにも、運用実態について政府の情報開示が求められる」と。