学習通信080321
◎音楽は社会を変える力……
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《潮流》
「新世界から」の名で親しまれているドボルザークの交響曲九番は、一八九三年末に初演されています。管弦楽は、ニューヨーク・フィルでした
▼新世界の大陸アメリカに音楽を教えにきていた作曲家が、故郷チェコ・ボヘミアヘの思いを音でつづりました。郷愁と生命力に満ちた曲想。やがてそれは、国境をこえて人々の心をとらえていきました
▼初演の栄誉をになったニューヨーク・フィルが、「新世界から」を携え、はじめて北朝鮮の平壌を訪れました。両国の国歌、アメリカを代表する作曲家ガーシュインの「パリのアメリカ人」、朝鮮民謡「アリラン」も演奏されています。まるで、国交が結ばれたかのような曲目です
▼ニューヨーク・フィルの歴史に、時々の世界がみてとれます。ナチスのユダヤ人狩りから逃れてきた巨匠ワルターもよく指揮し、戦後は顧問につきました。一九九〇年に東西ドイツが統一されると、東ドイツの民主化運動で活躍したクルト・マズアを常任指揮者に迎えます。北朝鮮と韓国で演奏するこんどの楽旅は、平和なアジアヘの流れのひとこまと記録されるでしょうか
▼交響曲「新世界から」は、チェコ音楽と黒人霊歌などアメリカ音楽の出あいから生まれました。両者がとけあう、万人の胸を打つ新しい音楽世界。ニューヨーク・フィル黄金期の指揮者バーンスタインの、次の言葉が思い出されます
▼音楽は人間のもっとも深遠な言語活動である=B彼は、音楽による人と人との結びつきを信じていました。
(「赤旗」20080228)
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文化の話題 音楽
ベネズエラの音楽革命
小村公次
いまベネズエラの青少年オーケストラが世界的な旋風を巻き起こしている。ベルリン・フィルの音楽監督サイモン・ラトルは、このオーケストラを初めて聴いたとき、「クラシック音楽の未来にとって最も重要な活動が、いまどこで行われているかと尋ねられたら、私は『ベネズエラだ』と答えるでしょう」と語っている。
このオーケストラが注目されるのは、その情熱的で高水準の演奏がクラシック音楽の新しい魅力を引きだしているからだ。リリースされている二枚のCDを聴くと、そのことが実感される。しかもオーケストラの団員が経済的に恵まれない層の出身者であることから、かれらを育てた音楽教育システムヘの関心が急速に高まっている。
この〈シモン・ボリーバル青少年オーケストラ〉は、一九七五年にベネズエラの経済学者で文化大臣もつとめたホセ・アントニオ・アブレウ博士が創設した「ベネズエラ青少年オーケストラ全国システム」(FESNOJIV)の頂点に立つ楽団である。
このシステムの卒業生には、二〇〇九年からロサンゼルス・フィルの音楽監督に就任する指揮者のグスターボ・ドゥダメルや、ベルリン・フィルの最年少コントラバス奏者として活躍しているエディクソン・ルイスなどがいる。そのため、このシステムがプロの音楽家を養成するものと思われがちだが、実態はそうではない。
米国と一部特権層による支配が続いたベネズエラは、世界有数の石油産出国であるにもかかわらず、貧困層が国民の半数を占め、犯罪多発国でもある。こうした環境のなかで、アブレウ博士は音楽教育が子どもたちの人格形成と犯罪抑制に有効であるとの信念で、この音楽教育に取り組んできた。それを支えているのは、博士の音楽に対する深い思想である。
彼はFESNOJIVの活動を紹介したベネズエラのドキュメンタリー映画「奏で、闘う」のなかで、「オーケストラが持つ不可欠にして、ただ一つの特徴は、『合意する』ことを前提に集まった共同体だということです。団員が学ぶのは協調の中で生きる方法です」と語っている。さらに「音楽は最も高度な次元で、社会の発展に貢献できるというこです。社会的な価値を伝える力があるからです。結束や調和、思いやりの心。音楽は人を結び、気高い感情を表現するのです」とも語っている。
このシステムは二歳半以上の子どもを公募し、無償で音楽教育を行うもので、首都カラカスのガレージで十一名の子どもたちを指導することから始まった。現在では全国で一三〇以上の教室が開設され、二〇〇の青少年オーケストラを有し、約三〇万人もの若者が音楽を学ぶまでに発展している。
ベネズエラのチャベス大統領は二〇〇七年九月、このシステムで音楽を学ぶ子どもたちを一〇〇万人にまで広げる支援策を発表した。「音楽は社会を変える力となる」という信念のもと、いまベネズエラで進行している事態は、音楽と社会の変革をめざす壮大な実践といえるだろう。
音楽評論家
(「前衛08年1月号」日本共産党中央委員会 p170-171)
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「音楽は最も高度な次元で、社会の発展に貢献できるというこです。社会的な価値を伝える力があるからです。結束や調和、思いやりの心。音楽は人を結び、気高い感情を表現する」と。