学習通信071029
◎「使いつぶし」……
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小中学生の「うつ病」、1.5% 北大調査
精神科医に「うつ病」と診断される小中学生の割合は1.5%であることが、北海道大学の伝田健三准教授(児童精神医学)らの調査でわかった。中学1年生では4.1%で、大人とほぼ同じだった。12日から徳島市である日本精神科診断学会で発表する。
これまで小中学生本人へのアンケートをもとに1割前後が抑うつ状態との結果が出ているが、今回は医師の診断に基づく。北海道千歳市内の小学校8校の4〜6年生616人と、中学校2校の1年生122人を対象に、学校の健康診断に合わせて4〜6人の精神科医が診断に当たった。
その結果、1.5%に当たる11人が、うつ病の診断で広く使われている米国精神医学会の基準で「大うつ病性障害」(うつ病)と診断された。高学年ほど増える傾向にあり、中学1年生では5人だった。軽症のうつ病や双極性障害(そううつ病)を含めると4.2%の31人(中1は13人)だった。不登校の児童・生徒も調べたが、うつ病は一人もいなかった。
伝田准教授は「本人へのアンケートではうつ病の可能性も含むため数字が高めに出がちで、今回の結果が実態だろう。大人の有病率は約5%と考えられており、中学生は大人と変わらなかった」としている。
また、最初の簡単な面接でうつ病や双極性障害を疑ったうちの約4分の1は、広汎性発達障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)とみられるという。伝田准教授は「ADHDなどの多動や衝動性といった特徴が、そう状態の症状と混同されている可能性がある」と指摘している。
(「朝日」20071009)
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うつ病はめずらしくない
最新の医学論文を読んでいたら、ある人が一生のうちにうつ病にかかる確率は、男性で一五%、女性では二五%というデータが出ていた。つまり、男女合わせて一〇〇人いたら、そのうち二〇人は一生のうちに一度はうつ病にかかる、ということ。
五人にひとりは、うつ病になるかもしれない。この数字、けっこうショッキングだよね。大学の授業でこのデータを紹介したら、「最近、どうしても勉強する気がしないのは、ぼくがうつ病だったからですね! 明日、病院に行きます! 」と言い出す学生もいた。その学生が勉強する気がしないのは、うつ病だからじゃなくて、単にバイトやデートのしすぎだと思うんだけどな……。
それはともかく、うつ病はめずらしくない病気。しかも、「うつ=ブルーな落ち込み気分」と思っている人も多いけれど、気分はそれほど悪くないのに、突然からだが動かなくなる、ふとんから出られなくなる、という「意欲の低下、行動の停止」で始まるうつ病もある。この場合は、まわりの人からは「さぼっているだけじゃないの」と思われて、うつ病を見のがしてしまうことも少なくない。
では、どうすれば「なにもやる気がしない」という気分が、うつ病なのか、それとも単なる疲れやだらけなのかを見分けられるのか。今は本屋さんに行くとうつ病の本がたくさん並んでいるから、その中にあるチェックシートを使って判断という手もある。でもそれだって完璧ではない。
いちばんいいのは、もちろん神経科や精神科など専門の医者のところに行くこと。そういう医者はうつ病かそうでないかを見分けるプロだから、毎日の様子をあれこれききながら、「あなたはちょっと疲れがたまってるだけのようですよ。治療より必要なのは、一週間の休暇です」「あなたの場合は、軽いうつ病が始まりかけているようですね。でもだいじょうぶ。ほんの少しのお薬ですぐに元気になるはずです」などと、その人にあったアドバイスをしてくれるだろう。
……とはいっても、うつ病にいちばんかかりやすい年齢は四〇歳。みんなくらいの年代にもうつ病はまったくないわけじゃないけど、ごくわずかなのだ。じゃ、どうして私はここでうつ病の話をしたのかって? それは最近、みんなの親くらいの年代で、うつ病がけっこう増えているから。いつまでも疲れが取れないお父さん、笑顔が消えてため息ばかりのお母さんが、初期のうつ病にかかっている、ということだってあるかもしれない。自分の家族がうつ病かも、なんてあまり楽しくないことだけど、最初にも言ったようにうつ病は決して特別じゃない、どこにでもある病気。それにきっちり治療すれば、必ずなおる病気でもある。
「前よりなんだか元気ないから、お医者さんに相談してみたら?」。みんな気軽にこう言いあえればいいのにね。
□うつ病についてどのくらい知っていますか
□「なんだかやる気がしない。私ってうつ病かな?」と思ったことはありますか
□友だちの親がうつ病になったら、どう声をかけてあげますか
(香山リカ著「10代のうちに考えておくこと」岩波ジュニア新書 p65-67)
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インタビュー集・人間の使い捨て≠ヘ許さない!
うつ病社会を加速する
正社員の「使いつぶし」
精神科医 天笠 崇さん
うつ病になっても会社は平気?
人間の「使い捨て」は、正社員にとっても他人事ではありません。
たとえば、私の患者さんだったA子さんは、米国系のITのX社の正社員でシステム・エンジニア(SE)でした。プロジェクトの利益目標を達成するために仕事も過酷で、メンバーが体を壊したり、派遣社員が急に抜けたりが続いたんです。そのなかでA子さんの時間外労働は月百時間、二百時間という状態がずっと続きました。体を壊したA子さんはうつ病と診断され休職しました。その後、復職の際に「同じ働き方は無理なので部署をかえてほしい」と希望しましたが、希望は通らず元の部署に復帰しました。後はいうまでもなく……再発でした。
これは「使い捨て」というより、「使いつぶし」といったほうがいいかもしれませんね。
A子さんは、就職難のなかでもメーカーに就職し、セクハラを受けたり、女性差別への不満から二度退職しましたが、二度とも正社員としての転職に成功してきました。有能な女性なのだと思います。しかし、企業側の扱いは彼女が病気でつぶれても構わないというものでした。辞めてしまったらキャリアのあるSEを新規採用するか、派遣社員を入れればいいと考えていたのでしょう。
X社の産業医は繰り返し長時間労働の是正を勧告していました。しかし、産業医との話し合いで、人事部の責任者は「心の病をもった人は私の部署にはいない。長時間過重労働をしても健康を害するなんてことはないんだ」といい放ちました。
過労自殺の調査のなかでは、こういうケースもありました。Y社のBくんは、入社して半年は先輩と一緒に営業で店舗を回っていました。半年後、一人で店舗を回るようになり、執拗な値下げ交渉のなかで相手からハラスメント(いやがらせ)も受け、注文も減ってしまいました。売り上げが先輩から引き継いだ目標の80%にまで下がってしまうというショック。それを挽回しようと長時間労働をしたわけです。そういう状態の中で突然、自殺してしまいました。二十代前半で、売り上げ目標の重圧に押しつぶされてしまったのです。
うつ病・自殺急増の元年
うつ病の患者は一九九六年以降、目に見えて増えています。厚生労働省の患者調査でも、九六年に四百三十三万人だったうつ病の患者数が二〇〇五年には九百二十四万人と二倍以上になりました。増加の原因には、目標に追われたり、納期が迫る中で、長時間労働に追い込まれ、心の病になる労働者が増えているということが大きいと私は考えています。
自殺者数も、九八年以降、三万人を超えていますが、そのうち有職者の自殺が九六年までは八千人前後だったのに、九八年には一万二〜二千人に急増しています。
自殺者三万人というと九年で二十七万人を超えるということです。私の住む埼玉県三郷市の人口の倍。市が二つ消えてしまう人数が、九年間で失われるという異常事態なのです。
このような状況は、九五年を起点としています。
九五年とは、「リストラ元年」「成果主義元年」「非正規雇用元年」という三つの元年≠ノ当たる年です。この年、日経連(現・日本経団連)が雇用についての新自由主義的改革の方針を掲げたのですね。これは労働者を正規と非正規と専門職という三つの階層に分け、リストラするという方針でした。
一人で戦う戦場≠フ時代
かつての日本企業には、もう少し家庭的な文化や風土があったと思うんです。男性中心という根深い間題はありましたが。信頼関係というか、支えあう関係というようなものがあったのに、それが失われてしまった。九〇年代半ばに「地殻変動」が起きたわけです。たしかに昔も長時間過密労働はありました。
たとえていうなら、八〇年代までは、経済的な戦争¥態のなかで、職場が、外部にたいしては戦う集団だけれど、内部にたいしては協力しあう一種の部隊≠竍連隊≠フような感じで、働きづめに働くけれど、そのことによって自分の存在感が高まるような感覚をもてたわけです。
ところが、九〇年代半ば以降、同じ職場の同僚とも派遣やアルバイトの労働者とも競いあわねばならない状況に置かれるようになったのですね。一人で戦わなければならない戦場──患者さんたちの話からはそういうイメージを感じてきました。
ハラスメントもあるし、報酬の格差も生まれた。成果主義に代表される新自由主義的な経営のあり方が、それらの新しいストレス因子を生み出して、労働者が心の病を抱えるリスクが増大したわけです。
とくに、個人の努力は無視して成果だけで評価するアメリカ型の成果主義を導入している企業は、典型的な「使いつぶし」マネジメントになっていると思います。純粋アメリカ型の成果主義が、日本企業には合わないということは、企業経営側も少しずつ気づきはじめているのではないでしょうか。
自殺やうつは経営トップの責任
自殺やうつ病が職場から生まれている。だとすると、経営トップこそが経営の責任として対症療法のみのメンタルヘルス対策だけでなく、うつ病をなくす職場づくりに本気で努めるべきではないでしょうか。例えば心身を病むことのない環境に改善するという一次予防対策をする。そのために企業内の労働安全委員会に全権委任する、くらいの決意で……。
そうした経営トップに変えるためにも、労働組合の活躍が期待されていると思います。
自殺者三万人という現在の危機的な状態にたいして、医学界もメディアも行政も、各方面から発信してきました。それなのに、一向に有職者の自殺は減らない。だれもがいま、このおかしくなってしまった日本をギアチェンジするために行動すべき時です。とくに、経営トップの責任を明確にすることは大切だと思います。(談)
(月刊「女性のひろば」07年11月号 p42-45)
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◎九五年とは、「リストラ元年」「成果主義元年」「非正規雇用元年」という三つの元年≠ノ当たる年……と。