学習通信071022
◎そのバカバカしさに……
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《編集手帳》
三島由紀夫は1958年(昭和33年)2月の一夜、技巧派で知られたボクシング日本バンタム級の王者、石橋広次選手と食事をした。日記形式の随筆「裸体と衣裳(いしょう)」(新潮社)に記述がある
◆リング上の石橋選手が、いつも水のように落ち着いていることを称(たた)え、その競技の醍醐味(だいごみ)を簡潔に記している。「ボクシングにおけるほど、観衆の熱狂と選手の冷静が見事な対照をなすものはない」と
◆三島の説とは逆に、理解不能の「熱」がリング上を占め、「冷」が観衆の心に宿る奇妙な試合を見た。一昨日、WBC世界フライ級のタイトル戦で挑戦者、亀田大毅選手の連発した反則技に観戦の興奮が冷めていった方は多かろう
◆王者、内藤大助選手の体を抱え上げてリングに叩(たた)きつけたのには驚いた。格闘技を習い始めた小中学生でも競技そのものを侮辱する行為はしないから、18歳と若いことを理由にかばうわけにもいかない
◆試合前、亀田選手は父親の史郎トレーナーと一緒に、33歳と年長の王者を公然と「ゴキブリ」呼ばわりしていたという。話題性さえあれば不作法も非常識も歓迎してきた一部メディアの責任でもあろう
◆「当今のボクシングにおけるほど、観衆の冷笑と選手の狂態が無残な対照をなすものはない」。そういう一文を日記に綴(つづ)る人が、いずれ現れないとも限らない。
(「読売」20071013)
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レーダー
スポーツ報道の姿勢転換の機会
ついに、日本ボクシングコミッション(JBC)の処分が科せられた「亀田一家」。亀田家の二男・大毅選手の暴走で荒れに荒れた11日のWBC世界フライ級タイトルマッチは、スポーツ番組の「バラエティー化」の弊害をさらけだしました。
大毅選手は、王者・内藤大助選手にローブローや目を突くサミングなど悪質な反則を繰り返し、最終12回では内藤選手を投げ飛ばします。相手の選手生命を奪いかねない危険な行為でした。
拳で殴りあう激しいスボーツ、ボクシングには「フェアプレー精神を侵す場合は排除する」というルールがあります。
亀田寄り≠ニされていたJBCも「世界ボクシングを冒とくした」と批判した試合を、「独占中継」したTBSはどう伝えたのでしょうか。
12回の暴挙ですら、アナウンサーは「若さが出ました」とかばい、相手の健闘をたたえることもせず、リングを去る一家に批判の言葉もありません。「放送が亀田寄りだ」などの批判が1500件もTBSに寄せられたといいます。「ボクシングを冒とくした」点ではTBSも同罪です。
一家がここまで傍若無人にふるまう背景は、一家と契約を結ぶTBSを筆頭としたメディア抜きには語れません。
「父親の熱血指導を受けるボクシング3兄弟」といった口ーカルな話題が、いつしか「3兄弟の世界挑戦物語」に飛躍。シナリオを完成すべく、実績不明の外国人選手との対戦で「不敗神話」を積み上げます。対戦相手をおとしめる暴言や挑発すら、売り物の一つとしてあおってきました。
まさにスポーツ報道の「バラエティー化」です。タレントを大動員したり、「〇〇王子」と名付けて追い回すなど、どの局でも当然のように行われています。しかし、こうした報道姿勢で競技本来の魅力を伝えられるはずがありません。人気が落ちれば「使い捨て」の問題も指摘されています。
大毅選手も、復帰への道は容易でないでしょう。18歳の少年が「不敗神話」と視聴率という重荷を背負わされ、格の違う相手と対戦させられた揚げ句、醜態をさらしてしまったのですから。
ようやくテレビ側からも「反省」の声が聞こえてきました。朝日系の「報道ステーション」(15日)で、古舘伊知郎キャスターは「私たちメディアにも責任がある」と語ります。当のTBS系「ビンポン!」(16日)に出演したジャーナリストの大谷昭宏氏は「テレビも亀田父子も踊らされた。そのバカバカしさに気付くべきです」
テレビがスポーツ報道のあり方を転換する、いい機会かもしれません。(研)
(「赤旗」20071019)
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◎拳で殴りあう激しいスボーツ、ボクシングには「フェアプレー精神を侵す場合は排除する」というルール