学習通信070411
◎お母さんでもひとりの人間……
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ママの手作り料理が子どもを救う?
いろいろな分野の研究者が集まる学者の会議≠フようなものに行ってきた。とはいっても私がその会議に出るのではなく、会議の前の公開シンポジウム(トークショーのようなもの)への参加をたのまれたのだ。テーマは「心」で「子どもと家族」の問題に議論が集中した。
ステージに上がった研究者たちがひと通り意見を述べたあとで、司会者が「会場の方、なにか意見は?」と言った。するとあるえらい先生が手をあげ、「私は、子育ての基本は家庭、しかも母親が手作りした料理を家族みんなでいただくことにあると思います」と発言した。すると、会場のあちこちで「そうだ、そうだ」とうなずく人、多数。
「ええ!」と私はビックリ。今、多くの女性は仕事をしている。会社づとめなどの仕事でなくても、ボランティアや地域の活動、打ち込んでいる趣味の用事などで、母親が家を留守にすることも多いと思う。そのほかにも、友だちと集まって情報交換したり、自分をみがくために美術館やお芝居に出かけたり、とにかく現代の女性たちは忙しい。
私の知人の女性の中にも、子どもを育てながら出張や残業をバリバリこなしている人がいる。「深夜までやってる保育所に子どもを預けるなんて、よくないよねえ。でも、今この仕事をやらなければ、私、一生後悔しちゃうような気がするんだ。仕事をやってるからこそ、休みの日には子どもにもやさしく接することができるんだ」。彼女はそう話していたことがある。
もちろんその女性の家では「ママの手作り料理」が食卓に並ぶ日は週末だけ。「朝なんて毎日、野菜とお肉入りチャーハンだよ。それがいちばん早くて栄養価も高いから」と彼女は笑っていた。
子どもとしては、母親がいつもいて、手作りの食事やおやつを食べさせてほしいなあ、と思うのだろう。父親にとっても、そのほうが安心できるのかもしれない。でも、いくらお母さんでもひとりの人間。子育てのほかにも、「これは自分にしかできない」という仕事や活動があれば、やってみたくなるのはあたりまえだよね。そういう場合は、家族が理解したり協力したりして、その家なりのやり方を見つけていけばいいと思う。そして、母親が休みの日には、子どもたちも思いきり甘えたり「カレー作ってー」とワガママ言ったりすればいいのだ。
毎日の手作り料理が子どもを救う。本当にそうなのかなあ。今は、女性にもいろいろな生き方があるはずなのに……。もし、みんなのお母さんがとても忙しくて手作り料理を作ってくれなかったとしても、「ひどい」と思わないであげてほしいな。「お母さん、お仕事たいへんそうだけど、応援してるよ」と言ってあげたら、お母さんはどんなに喜ぶだろう。そしてきっと次の休みには、腕によりをかけて手作り料理を作ってくれるはずだ。
□料理を作るのは好きですか
□お母さんの仕事が忙しすぎて毎日ヂャーハン、これどう思う?
□コンビニや店の料理より手作り料理のほうがおいしいと思いますか
(香山リカ著「10代のうちに考えておくこと」岩波ジュニアー新書 p77-79)
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一〇、結婚か職業か
「一六才の女子です。女性の幸せについておたずねします。女性の幸福とは、いったい何なのでしょう。一般の人は、結婚することと思っています。でも私はそう思いたくありません。私は誇りの持てる職につき、その職のために、結婚などしなくてもいいと考えます。今の私は、結婚などしたくないという気持でいっぱいです。それは私がまだ若いからかもわかりませんが、私の考えは間違っているでしょうか。お考えをお聞かせください。愛知県・K子」
これは中日新聞の「人生教室」に投書されたものです。この回答者であったわたしは、つぎのように答えました。
少女らしいかわいいお手紙よみました。結婚などしたくないという気持は、おっしやる通りあなたが、『まだ若い』からです。おとなたちの多くは、女の幸福は結婚だ、といいます。でも、男の幸福は結婚だとはいいませんね。男はしあわせな結婚と誇りある職業が両立するのに、女だけが、結婚と職業のどちらか一つを選ばなければならない、というのはおかしな話です。
これは長い間、女を家庭にだけ閉じこめておいた古い封建的家制度の考え方のせいです。この制度は昭和二〇年以後、新しい憲法ができて、崩壊しました。結婚とは『家』をついだり、嫁にいったり、ではなく、両性の合意だけで、新しい家庭を作ることにかわりました。そして性による差別も否定されました。しかし、そうなってから、まだ二〇余年しかたっていないので、過去の習慣や考え方から、すっかり抜けきれていません。おとなたちの古い考えにこだわらず、若ものたちは、憲法にそった新しい生き方を自ら発見し、作りあげてほしいものです。
さて、あなたのいう『誇りのもてる職』とは、どんな仕事でしょうか。一般には賃金が高い仕事と考えられているようです。もしそうだとすれば、女の賃金は残念ながら、まだ男の半分ですから、男にくらべて女は誇りある仕事には、なかなかつけないわけです。
低賃金であろうと、単純労働であろうと、人間の社会にとって、なくては困る仕事は、どんな仕事でも誇りあるものであるはずです。それが、誇りあるものになっていないところに問題があります。かえって、ドロボウやサギすれすれで成り立っている仕事の方が、高い評価をうけていることさえあります。
誇りある仕事は、どこかにないか、とさがしまわっても、男だってなかなかないのに、女にとってはもっとありません。それより、今、各自が毎日やっている仕事を誇りあるものに変えていく方が、はるかにかしこいようです。この道のなかにこそ、現代の幸せがあるのではないでしょうか。それが人生のたたかいだと思います。
このたたかいの過程のなかで、そういう生き方を理解し、はげましてくれる男性、いや、はげましてくれるだけでなく、同じ道を一緒に歩んでくれる男性はいないかな、と男性への期待がでてきます。実際にそういう男性があらわれてきたとき、結婚は考えればよいことで、今から、する、しない、と決めなくてもいいでしょう。自分の頭で一生懸命考えようとしているあなたの姿勢は立派です。今後を期待します。
新しい憲法ができて、女性も男性と同じように、幸福な結婚を追求し、高い教育をうけ、職業をもつ権利が保障されているはずです。それなのに、女性は一六才ともなると、もう今後の人生航路を、結婚か、職業かのどちらかを選ばなければならない気持に、させられるのが現状です。
若い年代は身体も頭悩もまだまだ成長をつづける年代です。早くから結婚だけしか考えられないような生き方は、どうかと思います。もっと若い年代にたくさんの経験をしましょう。働くのもいいし、働きながら勉強もいいでしょう。サークルやハイキングや仲間とともに遊びべんきょうする中で、みんなの考え方や生き方から学ぶことが出来るのです。
(田中美智子著「恋愛・結婚と生きがい」汐文社 p63-66」
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◎「今、各自が毎日やっている仕事を誇りあるものに変えていく……この道のなかにこそ、現代の幸せがあるのでは……それが人生のたたかいだ」と。