学習通信070312
◎○○博土や××大学教授といった肩書き……
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潮流
イギリスの科学雑誌『ネイチャー』の最新号に「日本のテレビ番組が科学のでっちあげを認める」という記事が掲載されています。「発掘!あるある大事典U」の事件のことです
▼大豆の発酵を研究するアメリカの大学教授は番組で、みその健康効果について自分がしゃべったかのように登場する場面を見てショックを受けたといいます。間違った吹き替えをされ、別の研究者の実験を自分がしたように描かれた研究者の事例なども紹介しています
▼同誌は、「あるある」のような露骨な例はまれだが、科学的正直さを犠牲にして視聴者を熱狂させる誘惑は日本で制限されていないといいます。マスメディアに研究を語る科学者に警鐘を鳴らしています
▼日本の科学者からも問題を重視した発言が出ています。日本学術会議が先月、会長談話を発表しました。テレビ番組などにおける科学実験の計画・実施にかかわる人も、同会議が去年発表した、科学者の不正行為を防止するための「科学者の行動規範」を守るべきだと
▼体重や血圧などの測定実験がテレビで多くなりました。同会議の談話には、「科学的事実に基づいた情報発信」は望ましいけれど、科学研究の要件を満たさない実験があり、「誤った結論が導かれる」とあります
▼『ネイチャー』誌に、メディアに用心深くなった大豆の発酵の研究者の発言があります。自分がどのように引用されるかがわかった、それを「あるある実験」から学んだと。メディアと科学者の関係を考えさせられます。
(「赤旗」20070227)
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テレビ番組等における「科学的」実験についての会長談話
食品の影響を取り扱うテレビ番組等において、体重、血圧、脳波、血液成分、各種の生理学的因子等に対する食品の影響を測定する実験が行われることが多くなった。このような傾向は、科学的事実に基づいた情報発信を行うという点では望ましいものである。
しかし、その実験計画の中には、適切な対照群の設定、統計的な有意差を得るために必要な実験例数の設定、実験データの検証と解釈などの点で、科学研究の基礎的な要件を必ずしも満たしていないものが見受けられる。このような不十分な実験計画からは、誤った結論が導かれることが多い。したがって、科学に精通した人材による実験計画の策定と実施を心がけることが極めて重要である。
これに加えて、最近、実験データの捏造などの、科学の倫理に反する行為が行われたことが報道された。いうまでもなく、テレビ番組は国民に与える影響が極めて大きく、そこに捏造等の不正行為があれば、テレビなどによる情報発信、ひいては科学そのものに対する信頼を著しく傷つけかねない。
残念ながら、科学者の研究活動にも、間違いや不正行為が起こりうる。日本学術会議は、わが国の科学者コミュニティを代表する立場から、科学者の不正行為の防止に向けて検討を重ね、平成18年10月には「科学者の行動規範について」(声明)を発表した。この声明の内容は、テレビ番組等における科学実験の計画・実施に関わる者も、当然、守るべきものであると考える。
関係者におかれては、この声明を参照して、不正行為の防止を自らの課題ととらえて十分な対応を行い、社会の信頼を得られる番組の制作などに心がけていただきたい。
平成19年1月26日
日本学術会議会長
金 澤 一 郎
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ニセ科学が社会にはびこっている
これらの本が売れ行きを伸ばすと同時に、科学リテラシー(科学の常識を活用する能力)をある程度持っている人なら笑い飛ばすような、「水は言葉を理解する」という「トンデモ」な考えを信じる人たちが出てきました。信じる人たちは、「実験をして、写真を撮ったのだから科学的だ」と思ったのでしょう。
しかし、これはニセ科学の代表例ともいえるものです。ニセ科学は、疑似科学、似非科学ともいわれます。つまりは、科学で使われる用語を使い、科学っぽい雰囲気を持たせていますが、本物の科学ではないものです。
学校の教員のなかには、「水は、よい言葉、悪い言葉を理解する。人の体の六〜七割は水だ。人によい言葉、悪い言葉をかけると人の体は影響を受ける」という考えは授業に使えると思った人たちがいます。子どもたちの道徳などで、『水からの伝言』の写真を見せながら、「だから「悪い言葉」を使うのはやめましょう」という授業が広まりました。
このようなニセ科学を用いた道徳などの授業によって、水が言葉や人の気持ちを理解すると信じ込む子どもが出てきます。その授業をしている教員も、実は子どもたちと同じで、そのようなことを信じているのです。信じ込んだ教員が熱意を持って授業をすれば、科学的には怪しいことも信じてしまう子どもたちがたくさん出ます。
ニセ科学を信じさせる教育を進めれば、まともな理科教育の基盤はさらに崩壊していきます。わが国の大人の科学リテラシーは今でも非常に弱いことが問題になっています。それがもっと弱くなります。
「科学っぽい雰囲気」を利用する商売人たち
ニセ科学の代表格の「波動」商品には、よい波動を転写したという波動水や、よい波動を出すというゲルマニウムの腕輪やネックレス、EM関連商品などがあります。
「マイナスイオン」発生をうたう商品群も、「波勤」商売の商品群と似ています。「マイナスイオン」を発生するという機器は、ひと頃、エアコンなどでブームになりました。しかし、「マイナスイオン」の実体がはっきりしないし、それが本当に健康によいのかどうかもはっきりしないし、オゾンなど有害物質を発生しているのではないかという疑問が出ました。
「マイナスイオン」について科学的に批判したものをきちんと読んだ人はごく少数ですから、ブームは去ったものの、「マイナスイオンは体によい」というフレーズは未だ商売人たちには使えるのです。これは、ニセ科学の「波動」と同様、「体によい何か≠ェ放射線のように出ている」という科学っぽい雰囲気を醸し出せるのです。
科学リテラシーの必要性
科学の分野で科学リテラシーの必要性が叫ばれています。リテラシーという言葉は、もともとは読み書き能力を意味しています。科学リテラシーは、その読み書き能力という意味から転じて「身につけてほしい科学を理解する力」です。
とくに科学リテラシーという言葉が世の中に知られるようになったのは、一九八九年に出された『すべてのアメリカ人のための科学』がきっかけです。
そこでは、このように書かれています。
「科学リテラシーは、自然科学および社会科学、さらに数学および科学技術に関わるものであるが、種々の側面を持っている。
・自然界に親しみ、その統一性を尊重すること
・数学、技術および科学相互の重要な関連の仕方を認識すること
・科学の基本概念と基本原理を理解すること
・科学的な思考方法を取ることができること
・科学、数学、技術が人間の営みであること、その有効さと限界とを知っていること
・科学的知識からおよび思考方法を個人的あるいは社会的目的のために用いることができること」
アメリカで科学リテラシーが問題になったのは、ほとんどの人にそれが不足しているという危機意識からでした。
実は、日本もアメリカと同様に、大人の科学リテラシー不足が深刻になっています。二〇〇一年の文科省科学技術政策研究所の調査によれば、日本の大人の科学技術への理解度は、日欧米一七ヵ国中一三位となっています。また科学技術への興味や関心も、調査国中で最低です。
しかし一方で、わが国の大人は、それでも科学技術は大切だと思っています。つまり、科学のことはわからないが、科学的だという雰囲気や、科学的であるとするお墨つきには弱い傾向があるのです。その結果、科学や技術は重要だから科学技術関連の政策はすんなり受け入れる、つまり、それに税金を使ってもよいとするが、科学と技術自体には興味や関心は薄く、それらの知識も弱い、というのが日本の大人の姿です。
そこには日本の教育、とりわけ理科教育の問題も大きいと思います。科学リテラシーを身につけるには、本当に使える精選された知識を系統的に学ぶことが必要です。さらに、そういう知識を頭だけではなく、実際に手や体を動かして実態的に身につけるとともに、学んだ知識を活用する場面を意識的に設けたり、生活や産業と関連づけることが必要です。
ところが理科教育の現状を見ると、基礎的に身につけておくべき事柄が欠落していて、断片的かつ非系統的で、日常生活と無関係な学びに傾斜しています。それでは、受験を乗りきることはできても、受験が終われば、ほとんど忘れ去られるばかりです。
しかし、「科学技術は大切だ」という気持ちは、多くの大人が持っています。そこをニセ科学は突いてきます。科学と無関係でも、論理などは無茶苦茶でも、科学っぽい雰囲気をつくることができれば、ニセ科学をホイホイと信じてくれる人たちがいるのです。すぐにオカルト的と見技かれる説明よりも、科学的な用語を使ったりして科学っぽい装いをしているものの、実は科学的な根拠はない──そんなニセ科学がはびこっているのは、科学への信頼感を利用しているのです。
まともな理科教育や環境教育、大人の科学リテラシーの育成を専門としている筆者は、ニセ科学がはびこる現状を憂えて、有志たちと「ニセ科学フォーラム」などの活勤をしています。本書の執筆も、その活動の一環のつもりです。
ニセ科学はなぜ問題か?
怪しげな商品でも、売る側は必死です。売るためには、○○博土や××大学教授といった肩書きを持つ人の推薦文も使います。それだけではなく、「病気が治った」という体験談と科学的な説明のお墨つきも繰り出してきます。健康によい、病気が治る、などとそれとなくアピールする必要があります。
体験談はライターの創作(でっちあげ)の場合もあります。本当の体験談であっても、本当にその商品を摂取したり使ったりしたから治ったのかどうかははっきりしていません。本当に効くかどうかは、ダブルプラインド法(二重盲検法)などで科学的に調べなければなりません。
幸いなことに、ニセ科学でだます商品の説明や売り文句には、いくつかの共通するキーワードがみられます。賢い消費者であれば、それらを知ってさえいれば、「怪しい」ということがわかるはずです。
ニセ科学に共通するキーワードは、「波動」「共鳴」「クラスター」「マイナスイオン」「エネルギー」「活性」などです。これらの言葉は、マイナスイオンを除けば、科学でも使われるものです。しかしニセ科学では、言葉の意味が変えられたりしています。こうした科学的な雰囲気を持つ用語を散りばめることで、科学への理解は浅いにもかかわらず科学的な雰囲気には弱い人たちの心理を、効果的に突いてくるのです。水についても怪しげな商品がわんさとあり、それぞれが科学的な雰囲気の説明をして消費者に迫ってきています。
ニセ科学を信じた人は、高価なニセ科学商品や機器を売りつけられて買ってしまったりすることでしょう。それだけではなく、周りの人たちにすすめて詐欺的商法の片棒をかついだりするようになるでしょう。自分や子どもが病気で悩んでいる人に言葉巧みにそのような商品を売りつけるときに、ニセ科学が使われています。実際、そのような商品がたくさん売られています。ニセ科学で治療まがいなことも行われています。
本書は現在の科学を背景に、とくに水についてのニセ科学を徹底的に検討し、そして日常生活における水の役割や安全性などに関して皆さんに知っておいていただきたいことをまとめていきたいと思います。
水は人間だけでなく、あらゆる生命を支えるかけがえのない存在です。水についてはさまざまな議論がありますが、本書では、科学的な視点から水とのつきあい方を考えていくことにしましょう。
(左巻建男著「水はなんにも知らないよ」携書 p5-12)
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◎「適切な対照群の設定、統計的な有意差を得るために必要な実験例数の設定、実験データの検証と解釈などの点で、科学研究の基礎的な要件を必ずしも満たしていないもの……。このような不十分な実験計画からは、誤った結論が導かれることが多い」と。