学習通信070115
◎人類と他の生物とのすみ分けの視点が……

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潮流

先日、柿の話を書きました。読んだ方から、いくつかお便りをいただいています

▼「日本の米カレンダー2007年版」を届けてくれたのは、水の文化研究所の富山和子さんです。十一月の暦に「柿」を載せています≠ニ。写真をみると、どっしりと構える雪の伊吹山を背に、たわわに実る熟柿の木が一本。滋賀県米原市で撮った風景です

▼日本の文化と環境をまもるため、農業や林業を大切に。そう訴え続ける富山さんが、柿の風景によせて書いています。「日本の並木道の歴史は古いが/始まりは柿や梨など果物のなる木の並本/古代、街道に植えさせたもので/飢えた旅人を救うためだった」

▼京都の読者から、思い出をつづるはがきが送られてきました。子ども時分、神社に植わる柿の木の実を採ろうとしたとき、見知らぬおじさんにしかられたそうです。「冬になって食べ物のなくなる小鳥たちが食べる実だから、勝手に採ってはいけない」

▼人が採らないでいても、柿は十分に役立っているはず、というわけです。人間と柿と動物。最近よく伝えられるのが、好物の柿を食べに人里へ現れるクマです。人を襲う事件も多い。各地で、柿の実を早めに摘んでクマをよりつかせない運動が起こっています

▼別の試みもあります。人家と山の間に、どんぐりのなる木や柿を植え、クマの里への出没を防ぐ。やはり、人が採ってはいけない柿です。秋もさらに暮れ、どの便りからも、人の暮らしと柿のかかわりの深さを、あらためて教わりました。
(「赤旗」20061124)

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潮流

ギリシア神話に出てくるエリュマントスのイノシシは、荒くれた巨獣です。エリュマントス山の山腹を徘徊して、両辺の住民すべての生活を脅かし、ヘラクレスに生け捕りにされました

▼エリュマントスのイノシシほどではありませんが、いま日本の山間地の農業は「野獣との戦争」(『野生動物の生態と農林業被害』)の様相を呈し始めています

▼農林水産省がまとめた昨年度の中・大型ほ乳類の農作物被害は、イノシシ四十九億円、シカ三十九健円、サル十四億円となっています。ツキノワグマによる果樹被害も急増しています

▼被害額はそれほどでもありませんが、二〇〇三年度の三億円余が○四年度は四億円余、昨年度は三億一千万円と推移しています。今年の被害額はまだですが、有害捕獲頭数が例年の四倍を超え、四千七百頭にのぼっているので、大変な被害が予想されます。同時に、このままではツキノワグマの絶滅が懸念されます

▼昔は、クマやイノシシは人里には近づきませんでした。なぜ、こんなことになったのでしょうか。さまざまな要因があるでしょう。確実にいえるのは里山の崩壊や農村の疲弊です。乱開発が進んだ一方、高齢化で中山間地の集落が消滅したり、減反などで耕作放棄地が急増しています

▼放棄地はやぶになり、イノシシの生息域を増やし、クマを集落に呼び寄せています。江戸時代末期、日本の美しい田園風景は外国人の称賛の的でした。野生動物と共生するためにも、農村の再生を考えるべきでしょう。
(「赤旗」20061219)

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オピニオン
インタビュー 領空侵犯
環境保護はチョウの視点で
おごり捨て すみ分け探れ
 村田製作所社長
   村田泰隆氏

──昆虫の愛好家として、現在の生物保護、環境問題の議論や取り組みに異議があるそうですね。

「昆虫マニアの乱獲でチョウが絶滅の危機にあるとの指摘があります。最近はチョウを殺すのは残酷だと子供たちに教えている先生が多いとも聞いています。しかし、チョウが減ったのは人間が環境を破壊したせいでしょう。昆虫採集を悪者扱いするのはおかしい。確かに乱獲する人もいますが、その人たちがすべてであるかのように考えるのは間違っています」

──環境省は絶滅の恐れがある生物の「レッドデータブック」を策定して保護を呼びかけています。この点は? 

「人間が気に入った特定の生物だけを指定し、採集を禁止して守ろうとするのはよくない。生物という点ではチョウもゴキブリも一緒です。他の生物も含めて生態系のバランスを保ちながら保護しないと、やがて人間はしっぺ返しを受けます。生態系のつながりを全部見て何をどれだけ残すかを植物も含めて考えないと効果は薄いでしょう」

──どんな方法で保護したら生態系を守れますか。

「人類と他の生物とのすみ分けの視点が大切です。人間はどこまで譲れるのか、線引きを明確にすべきです。昆虫に限らずクマでもウサギでも野生動物がここまでは出てきてもよい、人間はこの先には進入しないという境界を定めたらよい。米国は広大な地域を保護区にして人間の進入を防いでいます。日本では人口が密集しているためか線引きができていません」

「昆虫は生命力が強い。チョウ一匹で数百個の卵を産みます。その中でチョウになるのはほんの一握りですが、天敵がいなくなると大量発生する場合もあります。環境さえ整えば昆虫の繁殖力は哺乳(ほにゅう)類や鳥類とは大きな差があります。哺乳類と同じ感覚で保護しようとしたら増えすぎてしまうでしょう」

──地球環境の劣化が深刻です。

「日本でも環境問題を口にする人が増えている割に適切な行動がとられていません。ビルの屋上に園芸植物を並べるような運動にはあまり意味がありません。もともと生えていた植物や、そこにいた昆虫を元に戻す努力はしてもよいが、よそから持ってくる発想ではかえって環境を破壊します。人工飼育が行き過ぎると、自然淘汰されるべき種が残ってしまいかねません」

「太古の時代から様々な種が絶滅してきました。人間がすべてをコントロールできると考えるのはおごりです。人間の生活圏をこれ以上増やすと自然とのバランスが保てないのなら、人口を減らすしかありません」

むらた・やすたか
47年生まれ。ニューヨーク大卒。専務、副社長を経て91年から現職。「飛ぶ宝石」などチョウの写真集を出版。日本蝶類学会でチョウの進化をテーマとする論文を発表するなど研究活動にも精力的に取り組む。

聞き手から
チョウも人間も地球に住み着いた生物の一種にすぎない──。採集、飼育、写真撮影から化石文献の研究へと活動内容を広げながら五十年、チョウと付き合ってきた村田さんは、人間中心主義の発想に警鐘を鴫らす。人間が「チョウの視点」に立つことができれば、地球上で共存する道が開けるかもしれない。
(編集委員 前田裕之)

もうひと言
地球には人間が住む場所が足りない。最後は宇宙に出るしかない。
(「日経」20070115)

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◎「野生動物と共生するためにも、農村の再生を考えるべきでしょう」と。