学習通信060804
◎実際にはもろい……
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心の傷を乗り越える
二〇〇一年の大阪府池田市で起きた児童殺傷事件のあと、「子どもたちの心の傷」のことが問題になっている。実際に被害を受けたクラスの子どもの中には、「もう学校は見たくない」と言っている子や、三歳児にかえったように昔のおもちゃを出して遊んでいる子もいるらしい。その小学校は、校舎がすべて建て直された。
私も病院にいるとき、事件や事故の被害にあった人や、その家族のカウンセリングをしたことが何回かあった。その人たちの悲しみや苦しみは、まわりの人が思っているより何倍も深い。「すんだことは仕方ないから忘れなさい」「あなたが早く元気になることが、亡くなった人のためにもなるのですよ」と言われるのがいちばんつらい、と話してくれた人もいた。
早く元気にならなきゃ、というのは、本人たちがいちばんよくわかっているのだ。それをまわりから言われると、「はい、もうだいじょうぶです!」なんてムリをしてしまう。それでエネルギーを使い果たして、ひとりになったときなどにガクンと落ち込んでしまうのだ。
すごくおかしな言い方に聞こえるかもしれないけど、「心の傷」を早くなおす方法はない。でも、心というのは少しずつでも必ず回復する力を持っているもの。その力がよみがえるまでは、そっと待つしかないという時期もある。
楽しいはずの小学校で恐ろしい事件に巻き込まれ、ケガをしたり友だちを失ったりした子どもたちは、本当につらい毎日を送っていると思う。でもきっと、少しずつ少しずつその苦しみを乗り越えて、悲しみの中にも自分の人生を歩いていこう、という勇気がまたわいてくるはず。それまでは、いつもの家族といつもの先生や友だちといっしょに、なるべくいつもに近い生活を送れるようにするのが、望ましいと思う。
これほどの大きな事件ではなくても、みんなも毎日の生活の中で「心の傷」を受けることって、けっこうあるんじゃないだろうか?
信頼していた先生にひどいことを言われた、仲よくしていた友だちが陰で自分の悪口を言っていた、親が病気になってしまった、などなど。私たちの毎日には、もちろん楽しいこと、夢や希望もたくさんだけど、「心の傷」を受けるようなひどいこともごろごろ転がっている。
そういうときって、「こんなにひどい目にあっているのは自分だけ」という気持ちになりがちだよね? でも、実は違う。今、生きているおとなたちのほとんども子どものときや若いときに自分なりの「心の傷」を受けて、それを乗り越えておとなになっている。そう思っても間違いはない。「ウソだ」と思うなら、図書館に行ってどれでもいいから名作といわれる小説を読んでみよう。そこにはたくさんの「傷ついた人たち」が出てくるはず。
傷つくのは、だれだってイヤ。でも、もう傷ついてしまったという人は、あきらめないで。必ずそれは乗り越えられるから。それが私からのメッセージだ。
□あなたは「自分の心が傷ついた」という経験をしたことがありますか
□人の心は、どういうときに傷つくと思いますか
□もしまわりに心が傷ついている人がいたら、どうことばをかけてあげますか
(香山リカ著「10代のうちに考えておくこと」岩波ジュニア新書 p101-103)
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たくましい子
A(保母)──おとうさんとして、こんな子どもに育って欲しい、という子ども像がありますね。いろいろ理想はあると思いますが、そのうち、いちばん願っているものをひとつだけ選ぶとするとなんですか?
B(園児の父親)──「たくましい子」だね。人生はいわば競争、レースみたいなもんでしょ。どうせ遺産なんか残してやれないんだから、どんな困難も自分で乗り切っていけるたくましさだけはなくちゃね。
A──たくましい子に育てるためには、どんなしつけをなさいますか。
B──それがねえ、あのとおり泣虫で内気でしょ。私はね、子どもがはっきり自分の主張をいわないときは聞いてやらない。泣いてでもなんでも、自分の要求をくり返したら聞いてやるようにしたい。要求は徹底的に主張すれば、けっきょくは実現するものだ、ということを身につけさせたいと思うのですよ。
A──でも、それじゃわがままを奨励することになりますね。
B──どっちかといえば、しつけをやかましくしておとなしい子をつくるより、すこし、わがままなくらいのびのび育てた方が、たくましい子に育つでしょう?
A──おとうさんのお考え、どうも賛成できませんね。それでは「のびのびした」「たくましい子」を育てるには、しつけはあまりしない方が望ましい、ということになっちゃいます。私、むしろ逆のように思うんですけど。
B──というと?
A──しつけをしないでほおっておくということは、そのときどきの欲求や衝動によって動く、いわば感覚的な子をつくりやすいのです。そういう子は、困難なこと、いやなことにぶつかったとき、考えるより先に、さけたり、逃げたりしやすいのです。
B──ほほう、なるほど。
A──子どもはいろいろの制止や障害にぶつかるなかで、その年齢にふさわしい思考を発達させていきます。人間社会のなかで必要な基本的生活習慣をきちんとつけてこそ、自分で自分の行動を律する意志が育ちはじめます。そのときどきの感覚や衝動に流されない思考力があってはじめて、困難に負けないたくましさ、勇気が出てくると思うんです。そうでなければ外見上勇ましく見えても、実際にはもろい、ということになるでしょう。
(近藤・好永・橋本・天野「子どものしつけ百話」新日本新書 p116-117)
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◎「おとなたちのほとんども子どものときや若いときに自分なりの「心の傷」を受けて、それを乗り越えておとなになっている」と。