学習通信060621
◎等価交換の仮面のもとで……
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そして、これが今日のわれわれの全社会の経済的制度である。
あらゆる価値を生産するのは、労働する階級だけである。
というのは、価値は、労働をあらわす別の表現、すなわち、今日の資本主義社会で、一定の商品のうちにふくまれている社会的に必要な労働の分量をしめす表現にすぎないからである。
しかし、労働者たちによって生産されたこの価値は、労働者たちのものではない。
それは、原料、機械ならびに道具の所有者のものであり、また、これらの所有者に労働者階級の労働力を買うことを可能ならしめる前払い手段の所有者のものである。
だから労働者階級は、自分が生産した全生産物量のうち、一部分だけをとりもどすにすぎない。
(マルクス著「賃労働と資本 エンゲルスの序論」新日本出版社 p25)
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資本主義の特徴
資本主義の基本的な特徴は、生産手段(機械、工場など)を独占的に所有する資本家階級と、生産手段をもたないために、自分の労働力を資本家に商品として売る以外に生きていく手段をもたない労働者階級とに社会が分裂し、資本家階級が労働者階級を搾取していることにあります。
資本家の「もうけ」の源泉=剰余価値
労働者階級は、生活資料を手にいれるには、資木家の工場へいって働き、資本家に自分の労働力を売らなければなりません。一方、資本家は、きわめて少ない賃金を労働者に支払いますが、この賃金は、自分と自分の家族の最低生活をやっと維持できるものにすぎません。しかし、労働者が一日の労働によって生産する価値には、賃金にふくまれる価値の部分と、それを超過する価値の部分とがあるのです。つまり、労働者の労働は賃金にふくまれる価値より、さらに大きな価値をつくりだしています。この賃金にふくまれる価値を超過する価値の部分を剰余価値とよんでいます。そして、もちろん資本家は、この剰余価値をタダでふところに入れてしまいます。そして、この剰余価値が資本家の「もうけ」の源泉になります。
このように、資本主義経済制度における搾取とは、資本家が労働者から剰余価値を無償でうばいとることをいいます。資本家は、奴隷主や封建領主が搾取した生産物の大部分を自己の欲望をみたすのに消費したのとちがって、労働者から搾取した剰余価値を貨幣にかえます。資本家は一部を自己の欲望のために消費しますが、圧倒的な部分を、新たな事業に投資し、労働力や生産手段を買います。こうして、資本主義的生産は拡大されるわけです。
したがって、資本主義的生産の目的は、剰余価値または剰余生産物を最大限につくりだすことにあるのです。この剰余価値=もうけの追求は、資木家同士のはげしい競争をよびおこし、技術の改良、設備の「近代化」にともなって生産の発展をいっそうもたらします。こうして、資本家の富も増大していきます。しかし、このことは、労働者への「合理化」、労働強化、低賃金、権利のはく奪などをもたらし、労働者の貧困化をおしすすめます。
奴隷制や封建制下の搾取と資本主義の搾取の違い
それでは、このような資本主義の階級的搾取と、これまで学習してきた奴隷制や封建制の階級的搾取とは、どこがちがうのでしょうか。
奴隷制のもとでは、奴隷はいっさいの生産手段や生活手段をもっていませんし、奴隷自身が奴隷所有者に所有された「物いう道具」でした。したがって、奴隷は主人が殺そうと、何をしようと勝手であり、奴隷の労働の生産物はすべて主人に搾取されていました。封建制のもとでは、農民は奴隷とちがって、労働用具や自分の小さな経営をもっていましたが、土地は封建領主が独占的に所有しており、封建領主の暴力や慣習、法律などの経済外的強制によって、農民はその剰余労働を封建地代というかたちで搾取されていました。
しかし、資本主義のもとでは事情がちがいます。資本主義の労働者階級は、つぎの二つの点でこれまでの奴隷や農民とちがいます。@封建農民は自分の道具や経営をもっていましたが、労働者階級は、資本の原始的蓄積や産業革命によって、いっさいの生産手段から切りはなされていること、そして、この生産手段は資本家に所有されており、そのため、労働者は生活資料を手に入れるためには資本家の工場に働きにいかなければならないのです。A奴隷や農民が奴隷生や封建領主に人格的に従属していたのとちがって、労働者の人格は、一応形式的には自由であること、したがって、資本家と労働者は、法的には自由な対等な人間として契約をむすびます。労働者は、自分の意志によって、資本家に自分の労働力を商品として自由に販売することができるのです。このような意味で、資本主義の労働者階級は外見的には「自由」ですが、さきほどものべたようなからくりによって、資本家に経済的に搾取されており、実質的な抑圧をうけ、事実上の不平等な状態におかれているのです。
このようにみると、資本主義の搾取は労働者が生活を維持するには労働力を売るほかなく、資本家は労働者から無償で剰余価値を自分のものにしてしまう経済的強制のかたちをとり、奴隷制や封建制の搾取は、さまざまな直接的強制(経済外的強制など)のかたちをとるところに、その大きなちがいがあるといえます。
資本主義経済では、労働力の提供とそれにたいする賃金の支払い、という等価交換の仮面のもとで剰余価値の搾取がおこなわれることに、その生産関係の特徴があるといえましょう。ここに、実際には搾取されていながら、それがなかなか理解しにくい、資本主義の秘密の根拠があります。
(犬丸義一・山田敬男「社会発展史」学習の友社 p132-135)
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◎「労働者たちによって生産されたこの価値は、労働者たちのものではない」と。