学習通信05111920 合併号
◎利潤は競争によって……
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5〔賃金と物価〕
わが友ウェストン君のすべての議論は、もっとも簡単な理論的表現にまとめると、つぎのただ一つのドグマに帰着する。すなわち「諸商品の価格は賃金によって決定あるいは規制される」と。
このありふれたすでに論破された謬論にたいする反証をあげるために、私は実際の観察にうったえることもできよう。私は諸君にこう言ってもよい。イギリスの工場労働者、鉱山労働者、造船工などは、その労働の価格は相対的に高いが、彼らの生産物が安いために他のすべての国民との競争に勝ち、一方、たとえばイギリスの農業労働者は、その労働の価格は相対的に低いのに、彼の生産物が高いためにほとんどすべての他の国民との競争に敗れている、と。
同じ国の品物と品物をくらべ、ちがった国ぐにの諸商品をくらべることによって、現実的なというよりもむしろ外見的ないくつかの例外を別とすれば、概して価格の高い労働は価格の安い商品を生産し、価格の低い労働は価格の高い商品を生産するということを、しめすことができるであろう。このことは、もちろん、一方のばあいには労働の価格の高いことが、他方のばあいには労働の価格の低いことが、それぞれこれら正反対の結果の原因であることを証明するものではないであろうが、いずれにしても、諸商品の価格が労働の価格によって支配されるものではないということを証明するものであろう。だが、こうした経験的な方法を用いることは、われわれにはまったく不必要なことである。
ウェストン君は「諸商品の価格は賃金によって決定あるいは規制される」というドグマをとなえたことはない、という人がたぶんあるかもしれない。事実、彼はそのように定式化したことはなかった。
それどころか、彼はこう言った。利潤と地代も商品の価格の構成部分をなしている、なぜならば、労働者の賃金だけでなく、資本家の利潤と地主の地代も、まさに商品の価格のなかから支払われなければならないからだ、と。それにしても、彼の考えによると、価格はどのようにして形成されるのか? まず第一に賃金によってである。そのあとでその価格に、資本家のために何%かが付加され、地主のためにさらに何%かが付加される。
いま、ある商品の生産に使用される労働の賃金が一〇であると仮定しよう。もし利潤率が前貸賃金の一〇〇%だとすれば、資本家は一〇をつけくわえるであろうし、またもし地代の率も賃金の一〇〇%だとすれば、さらに一〇がつけくわえられることになり、この商品の総価格は三〇になるであろう。しかし、こんなふうに価格をきめるのは、価格を賃金によってきめることでしかないだろう。さきのばあい、もし賃金が二〇に上がれば、この商品の価格は六〇にあがるというようなぐあいになるであろう。
したがって、賃金が価格を規制するというドグマをとなえたすべてのおいぼれ経済学著述家たちは、利潤と地代を賃金にたいするたんなる追加的バーセントとしてとりあつかうことによって、このドグマを証明しようとしたのである。もちろん、彼らのうちのだれ一人として、これらのパーセントの限界をなんらかの経済法則に還元することはできなかった。
それどころか、彼らは、利潤は伝統や慣習や資本家の意志によって、あるいはなにかほかの同じように恣意的で説明のしようがない方法によってきまると考えているように見える。たとえ彼らが、利潤は資本家たちのあいだの競争によってきまると主張したところで、それはなにものをも説明しない。そうした競争は、たしかに、さまざまな産業におけるさまざまな利潤率を均等化したり、それらの利潤率を一つの平均水準に帰着させたりはするが、しかしそれは、この水準そのもの、すなわち一般的利潤率を決定することはけっしてできない。
(マルクス著「賃金、価格および利潤」新日本出版社 p119-122)
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以上を整理しますと、株主などの資本家が得る所得、すなわち利潤は、彼らが引き受けるリスクに対する報酬であると考えることができます。現実の世界は、大きな不確実性に満ちています。この不確実な世界で、あえて事業を拡大するということは、大きなリスクをともないます。
リスクが大きい現実を前にして勇気を出して投資をし、労働者を雇用するという行為がたまたま運よく、あるいは、経営者の必死の努力の結果、当たった場合に、その報酬として利潤が割り当てられるというわけです。
すぐれた企業家というのは、不確定な事業環境のなかで洞察力を働かせて意思決定をし、それを成功に導く能力をもった人のことです。資本主義社会の推進力はこういった企業家たちの「冒険的精神」あるいは「動物的直感力」に負う部分が大きいのです。
(中谷巌著「痛快 経済学」集英社文庫 p166)
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◎「もちろん、彼らのうちのだれ一人として、これらのパーセントの限界をなんらかの経済法則に還元することはできなかった」と。