学習通信031215
◎伝えあうこと……。
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3分で伝える ジャパネット高田社長の話し方
ポイントを絞り語りの素人≠ナ
テレビ通販でおなじみのジャバネットたかた(長崎県佐世保市)。急成長の秘密は自ら番組に出演し、ものの三、四分で商品に興味を持たせる高田明社長(55)の「語り」にあるようだ。自分の意見をきちんと伝えるのに、そのコツを応用できないか。
木訥(ぼくとつ)な口調が熱を帯び、最後は「付属品、全部つけて五万円切りました。よんまん、きゅ─せん、はっぴゃくえん」と締める。思わずモノを手に取りたくなる語り口、というわけか日経MJの通倍販売調査・テレビ通販部門で、ジャバネットたかたは売上高一位となった。
パソコンやデジカメといった家電製品などの取扱説明書は難解だ。それが高田さんにかかると、子供の絵本のようなわかりやすさになる。
テレビ通販で商品説明にかける時間は一点、三〜五分。まず商品のすべてを語ろうと思わないことが大事だ。ハロゲンヒーターなら、スイッチを入れて二秒で暖がとれるというところに重点を置き、三分間のうちの一分を割く。他の暖房器臭が及ばない「二秒」が視聴者の脳裏に残る。
効果、性能についてわかりよい数字や比較の対象を示すのは初歩。用語を自分の言葉に変換する作業も欠せない。コンピューターの心臓部となるCPUなら「小学生の頭脳か、大学教授の頭脳か(の違いが表れる部分)」と鋭明する。「中央演算処理装置」とロにしてはいけない。
言葉の流麗さなどおかまいなし。助詞や主語、術語を省くのも手だ。冒頭の例だと「付属品を」の「を」は省く。「日本語はそれで通じるわけで」。話し言葉としてのあいまいさに甘えていいというわけだ。
「アナウンサーにはなれっこない」と話す高田さんには独特のイントネーションがある。「あれは生まれた平戸(長崎県)のしゃべり。地元ではみんなあんな感じです」。以前、服装の専門家をつけたら首にスカーフを巻かれ、閉口した。今は普通のスーツ。
企業の研修を多く手がける「CNS話し方研究所」(東京都文京区)の福田健所長は「自分で話上手と思っている人の言葉は意外に耳に残らないことがある。高田社長はいい意味であかぬけず、自分の地を出すので印象に残る」とみる。
生放送でも台本は使わない。「お年玉付き年賀はがきが発売になった」など時事の話題を機敏に取り込むためだ。また同じ商品でも「生放送の方が反応がいい」(同社)というのはアドリブの応酬の緊張感がにじむからだろう。「本当に何かを伝えたいという心があれば」(高田さん)、台本に目をくれる必要はない。
いわゆるプレゼンの教科書に載っている点もあるが、高田さんは専門的に学んだわけではない。この訴求(そきゅう)力はラジオ通販の時代に培われたようだ。「ラジオでもモノを見せることばできる」と事もなげだ。たとえば超小型カメラ。
「名刺より小さく、携帯電話より軽いんです、と話せばラジオでも商品がみえる」
ただし、このわかりやすさは深い商品知識のたまもの。飛行機でも住宅でも三分でアピールできるか? 「できるように勉強します」。収録の場には必ずメーカーの担当者が付き、商品のポイントを突き詰めながら、丸一日かけて撮る。ものごとをかみくだき、三分で料理してみせるにはそれなりの下ごしらえが要るということを忘れないように。(篠山正幸)
(日経新聞 031129)
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よむ意識より、伝える意識
「まず、手元にある原稿を声に出して読んでみましょう」というと、書かれてある文字を目で追って、音声化しているだけという人も多いのではないでしょうか?
その原稿は、自分で書いたものかもしれませんし、他人によって書かれたものかもしれません。自分で書いたものであれば、どんな内容が書かれているかもちろんわかりますよね。他人の文章でも、入念に下読みを行って、どんな内容が書かれているか十分理解しましょう。
というのは、文字を音声化するのではなく、書かれている内容を伝えるという意識をもつてほしいのです。
手元にある原稿は、あくまでも予備的・補助的なもので、伝えたい内容は自分の頭めなかにあるのです。さあ、伝える意識は準備できましたね。
伝える相手を意識する
次に伝える相手を意識しましょう。声に出して読むということは、伝える相手がいるということです。
読み聞かせる相手がどんな人なのかによって、使うことばも、読み方も大きく変わってきます。
例えば、子どもに難しいことばを使って話をしても伝わりませんし、一般の人に対して専門家が専門用語を使って説明してもチンプンカンプンですよね。場合によっては、難しいことばをやさしく言い換えたり、具体例を盛り込んだりすると伝わりやすくなります。また、書きことばで書かれたものは、話しやすいように書き換えてもよいでしょう。
そして、読み方です。伝える相手を意識すれば、読むトーンやテンポが決まってきます。お年寄りに早口で、まくし立てるように読んでも伝わりませんし、逆に、若者相手にゆっくり読んで聞かせても眠たくなってしまいます。読むトーンが高すぎても、低すぎても耳障りです。読むときは、どんな人に伝えるのか常に意識してください。
自信をもって、自然体で!
「伝える意識」をもって、「伝える相手も意識」して読んだけど、何だか伝わらない……なんてことはありませんか?
やるだけのことをやったら、あとは「自信」をもつて、自然体で読んでみましょう!
「自信」がないと、声が震えてしまったり、聞き取りにくかったりします。おなかに力を入れて、まっすぐ声を出してみましょう。第一声がうまく出ると、気持が落ち着きます。読む前に、発声練習をすることもお勧めです。いきなり声を出そうとしても、簡単には声は出ません。スポーツ選手のウォーミングアップと同じように、アナウンサーも声を出す前は発声練習をしてのどを暖めます。発声練習が、自信にもつながりますので試してみてください。
落ち着いて「自信」がもてたら、「自然体」で読むことを心がけてください。肩に力が入っていたり、大きな声だと、聞いているほうが逆に疲れてしまいます。全身の力が抜けて、リラックスして読んでいるときがいちばん相手に伝わるものです。
伝わる読み″の上達法
読んだ内容が伝わっているかどうかは、相手の反応を見れば一目瞭然です。開いている人が、首を傾げていたり、ポカーンとしていたら、伝わっていない証拠です。逆に領いていたり、身を乗り出して聞いてくれていたら伝わっているということです。
読み終えた後に、感想を聞いてみるのも伝わる読み≠フ上達法の一つです。声のトーンやテンポは聞きやすかったかどうか、難しいことばやわかりにくい言い回しはなかったかどうか、他人の感想を聞いてみるとよいでしょう。「よかったよ!」「わかりやすかったよ!」とお褒めのことばをもらうこともあれば、「○○のところがわかりにくかった」とか「あの発音が聞きにくかった」など手厳しい意見を言われることもあります。厳しい指摘はなかなか素直に受け入れられないかもしれませんが、そんな指摘こそが上達のヒントになります。
人前で読む経験を重ねることも大切です。人前に出ると緊張してしまうという人もいるのではないでしょうか? 場数を踏むことで、緊張感をある程度コントロールできるようになります。
自分の読み≠探求
いろいろなことを書きましたが、とにかく、どうやったら伝わる読み≠ノなるのか自分なりの方法を考えてみてください。それが読み≠フ個性にもつながります。試行錯誤しながら自分なりの伝わる読み≠探求するのも楽しみの一つです。
(「NHKアナウンサーのはなす きく よむ」NHK p82-85)
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しかし、まだ少年、少女である皆さんには、私は次のようにいいたいと思います。さきに書いたような「不幸な」指導者にも、「不幸な」市民にも、その職業としての誇りを保てない点で「不幸な」働き手にもなりたくなければ、自分を訓練することができる、ということです。
これまでもたびたび書いてきたことなのですが、文章を正確に書くようにすることによって!
文章を書くということは、自分の心のなかに湧き起こるものを書くのだ、と考えていられる人は多いでしょう。しかし、私たちは自分の目で見たことを書くのだし──それに反対される人は少ないはず──、そのことをよく考えれば、私たちは自分の耳で聞いたことを書く、と続けても賛成してくださるのではないでしょうか?
私たちの本当の知恵は、自分の目で見ること──本を読むことも、そこに入れましょう──、自分の耳で聞くことをよく受けとめ、自分のものとして活用することができるようになって、生まれるのです。
私たちは自分の頭で考えるのですが、ひとりで考える時、問題がこんぐらがって、すっきりした答えがでない時、自分のなかに、自分とは別の人物をひとりか二人作り出して──または、実際にいる人物をそこに呼び入れるようにして──そのメムバーの対話として考えてみることは、整理したり深めたりする上で有益です。
これまでにも例にあげましたが、プラトンの『メノン』やガリレオ・ガリレイの『新科学対話』は、そのようにして人間が考えるやり方のすばらしい見本です。
そして、このように考える仕組みで大切なのは、自分より他の人間がなにを、どのように話すかを、しつかり聞きとる注意深さなのです。
他の人のいうことによく耳をすきし、注意深く受けとめることができるようになれば、自分が本当にいわなければならないことを確実にまとめることもできます。他の人のいうことに耳をかさないで、ただ自分の意見だけを言いたてることの、弱さも自覚されます。そこから、忍耐強く他の人を説得する力が生まれてきます。
そこで、私は、本を読んでの自分としてのまとめや、実際に他の人から聞いたことの、その人の話しぶりも生かしての内容を、自分の文章として書いてみることをすすめたいのです。
その上で、あらためて読みかえします。そして、アヤフヤに感じられることは、もう一度本に照らし合わせることをすればいい。
──あの人は、こんなふうに話したのじゃなかった、と感じられれば、文章を書きなおすうちに受けとめをやりなおすことができます。
私は子供の時、大人のいうことをなんでもおとなしくきく性格ではありませんでした。相手のいうことが正しくないと思っても、たまに黙っていることがあったのは、相手の考えをよく受けとめている自信がない時でした。さきにもいったとおり、外国語で話していて、いまも同じことがあります。
先生や親たちをふくめて大人のいったことで大切に思えた言葉を、皆さんが日記なりノートなりに書いて──書きなおしもして──、他の人に自信を持ってつたえることができるよう、練習されるようすすめます。友達のいうこと、さらに心のなかで自分が自分にいうこと、それらについても同じです。
(大江健三郎著「「新しい人」の方へ」朝日新聞社 p120-123)
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◎「他の人のいうことによく耳をすきし、注意深く受けとめることができるようになれば、自分が本当にいわなければならないことを確実にまとめることもできます。他の人のいうことに耳をかさないで、ただ自分の意見だけを言いたてることの、弱さも自覚されます。そこから、忍耐強く他の人を説得する力が生まれてきます」
◎伝えあうという事は、私たちの成長に直結しています。